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Don Nix – In God We Trust (1971)

 メンフィス出身の音楽プロデューサーDon Nixは、スタックス・レーベルの前身となったサテライトでキャリアを積み、60年代の中期にLAに赴いたあとは、西海岸ロックの持つ自由な空気を思い切り吸いながら過ごしていた。71年に発表された彼のファーストである『In God We Trust』は、中身こそ直球のスワンプ・サウンドだが、制作のきっかけとなったのはLAで交流を深めたLeon Russellの働きかけによるものであった。
 Nixのボーカルは朴訥としていて温かみがあり、そこに南部らしいゴスペル・コーラスが重ねられている。さらに言えば、時おりFurry Lewisのスライド・ギターや、シカゴ風の「Iuka」のような濃厚なブルースの味わいが挟み込まれているのもこの時代のNixの特徴だ。
 アルバムには敬虔な力強さを感じさせるゴスペルが多く取り上げられている。「I'll Fly Away」や「Amos Burke」ではEddie Hintonによるシタールのような妖しい音色のギターが印象に残る。Roger Hawkinsはどっしりとしたドラムで演奏を支え、ピアニストのBarry Beckettは音楽の盛り上がるここぞという場面で力強いタッチを響かせている。
 数えきれないバージョンが残されている名曲「Will The Circle Be Unbroken」は、ゆったりとしたテンポでドラマチックな構成にアレンジされれた。そこから小品の「I've Tried (Trucker’s Lament) 」でアルバムを締めくくる流れも実に見事である。アルバムを一周味わった後に冒頭の「In God We Trust」を聴き返すと、コーラスの抑制やJay Spellのフィドルの大々的なフィーチャー、さらにロック的な美しさが意識されているサウンド・プロダクションがひときわ新鮮に聴こえてくるだろう。
 タイトルにたがわない、サザン・ゴスペルの完璧な傑作である。