見出し画像

Gryphon – Gryphon (1973)

 トランスアトランティック・レーベルの中でもひときわの異彩を放つ一枚。というのもメンバーのBrian GullandとRichard Harveyは王立の音楽大学を出たエリートで、1973年のアルバム『Gryphon』は彼らのクラシック音楽の技術や素養、そして英国が誇る古楽の伝統を惜しみなく示したアルバムだからだ。
 17世紀から伝わるダンス音楽の「Kemp's Jig」や、死を超えようともがく愛を描いた民謡「The Unquiet Grave」など、レパートリーはインストと歌ものを問わない。また国王ヘンリー八世が作曲した「Pastime With Good Company」をロックの領域にいち早く持ち込んだのは彼らであり、この曲はJethro Tullや幻のフォーク・グループStone Angelらがのちにレパートリーとして取り入れた。
 実験的なテープの逆回しが施された「The Devil And The Farmer's Wife」や、打楽器が巻き起こすグルーヴの渦の中で少しずつ曲のテンションが高まっていく「Estampie」には、とてもプログレらしい展開が感じ取れる。さらに、前者のラストではラグタイムのフレーズが挿入されているうえに、後者では「Over The Rainbow」のメロディが非常にさりげなく引用されていることからも、Gryphonが絶妙な距離感をもってアメリカン・ミュージックの要素にもタッチしようとしてたのが分かるだろう。
 本作の時点ではまだ息をひそめているが、名盤『Red Queen To Gryphon Three』の頃には彼らのロック的な要素が完全に開花していく。Harveyは本作で音楽キャリアの始まりを飾ったのちに、作曲家Maurice Jarreに導かれてサウンドトラックの道を歩んで成功することになる。映画『ダヴィンチ・コード』や『ライオン・キング』などが特に有名だが、オーケストラの指揮などその活動は非常に多岐にわたっている。