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Dennis Wilson – Pacific Ocean Blue (1977)

 カリフォルニア神話の体現者であり、栄光のWilson兄弟の一人であるDennis Wilsonのソロ・アルバムは、アルバム・ジャケットからも伺えるように、彼自身の破滅的な生活が最高潮になっていた時期に発表された。また、長兄であるBrian Wilsonによれば傑作であるにもかかわらず、著作権上の問題によりCDが長らくレア・アイテムとして認識されていた作品でもある。
 A面冒頭を飾る「River Song」は70年代の初頭からアイデアが暖められていた、ゴスペルを思わせる重厚なコーラスが印象的な曲だ。「Dreamer」は70年代特有の重いブラスとグルーブにDennisのハスキーな歌声が乗っている。B面はよりAOR色が強まった「Time」や「You and I」のように、日本ならば間違いなく「シティ・ポップ」と形容されるような美しい曲が並ぶ。サウンドはポップの化身ともいうべきThe Beach Boys印だ。また、本作の多くはDennisとGregg Jakobson(マンソン・ファミリーの一件でDennisと関わりあったソングライターでもある)によるもの。
 躁と鬱をさまようようなDennisのボーカルは、質感としてはJoe Cockerを彷彿とさせる。くたびれているがどこか優し気げな声はDennisの姿そのものだ。コンサートではCockerの名曲「You Are So Beautiful」を酔っぱらいながら歌うシーンがあるし、曲のライティングに寄与しているという噂さえ飛び交いファンの語り草となった。
 本作録音直後にDennisは不慮の事故によって他界してしまい、本作が唯一のソロワークとなってしまった。次作となるはずの『Bambu』は未発表の憂き目を見かけるが、2008年に公式のリリースを果たしている。