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Os Mutantes (1968)

 サンパウロ出身の少女Rita Lee Jonesとその恋人Arnaldo Baptista、そして彼の弟であるSérgio Dias BaptistaからなるトリオOs Mutantesは、強い絆で結ばれていると同時にかなり早熟なバンドでもあった。前衛的なロック・ミュージックから影響を受けた彼らが参加していたトロピカリズモ運動は、保守的なブラジル人からは特に強い反発を受けることになる。へコール劇場でCaetano Velosoのバックバンドを務めた夜、彼女らのケバケバしい衣装を見た観客が、演奏を始める前にも拘らず壮絶なブーイングを浴びせたというエピソードからも、当時の風当たりをうかがい知ることができる。
 使い古された言葉で形容するなら、Os Mutantesのファースト・アルバムは『Revolver』に対するブラジルからの回答である。レコードの不良を疑いそうになるテープの遅回し(「Panis Et Circensis」)や、トロピカルとサイケ・ガレージの融合(「A Minha Menina」)は、間違いなくMPBの歴史における突然変異だ。
 耳をつんざく「Bat Macumba」のサウンドにも度肝を抜かれるが、2分にも満たない「Tempo No Tempo」のコーラスに込められたさりげない上質なポップ・センスも聴き逃すわけにはいかない。甘い愛を歌い上げる「Baby」では、Arnaldoが情熱的かつジャズっぽいオルガンを披露している。
 才能にあふれた3人のメンバーは、全員ソロ方面でも活躍した。特に72年にバンドを脱退したJonesはTutti Fruttiというグループを率いて商業的ヒットも放つようになり、ブラジルのロック歌手の象徴的な存在となる。