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Ry Cooder (1970)

 Ry Cooderの音楽には初めから〈Borderline〉など存在しなかった。若干22歳で発表したこのファースト・アルバムには、まだワールド・ミュージックの趣向こそ影も形もないものの、時代とジャンルを超えたアメリカ音楽への深い愛情が感じてとれる。Cooderはリベラル派の両親のもと、Josh WhiteやWoody Guthrieに幼少から親しんできた。そこにブルース・リバイバルの時流もあわさったおかげで、Randy NewmanからBlind Willie Johnsonに至るまでの多彩なレパートリーを含む本作の土壌ができたという。
 「One Meat Ball」はWhiteが40年代から歌ってきた曲を、「Do Re Mi」もGuthrieの古典をそれぞれ現代的にアレンジしたもので、いずれも歌詞の内容はプロレタリアートに寄り添っている。プロデューサーのVan Dyke Parksはピアノで本作に参加し、ついでにやや大仰なストリングスを加えている。後にJohnny Cashも歌ったNewmanの名曲「My Old Kentucky Home」や、Cooderのスライドが光るオリジナル「Available Space」に、戦前の「How Can A Poor Man Stand Such Times And Live?」が並んでいても違和感の生まれる隙は決してない。それは本作全体が一枚のルーツ・ロックのアルバムとしてしっかりと完成しているからだ。
 アルバムの最後を飾る「Dark Is The Night」は、Cooderが崇拝したJohnsonのレパートリーで、同時に最もシンプルなインスト曲でもある。後に『Paris, Texas』でも印象的にフィーチャーされ、音楽ファンのみならず映画ファンの心をも揺さぶったのは、まさにこの狂おしいスライドの音色であった。