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Ginger Baker – No Material (1989)

 きっかけはJohn Lydonだった。No Materialは1987年のスイスで行われるジャズ・フェスティバルのために、Bill Laswellを中心にほとんど即席と言っていい形で結成された。LaswellはまずSonny SharrockやPeter Brötzmannといった重鎮や、自身の右手でもあった若手ギタリストNicky Skopelitisを入れた。そこへ当時隠遁状態だったGinger Bakerがジョイントしたきっかけは、LaswellがプロデュースしていたPiLの『Album』の録音のために、はるばるイタリアから呼び出されたことだった。その際Lydonは新グループのメンバーにBakerを加えることを提案し、Laswellはその冗談に近い言葉を本気にしたのである。こうしてジャズ界の前衛派と、元Creamのドラマーの邂逅という奇抜なセッションが実現した。
 本作の成功の秘訣は、まずSharrockの暴力的なサウンドとSkopelitisの放つロック・テイストとの対比が素晴らしいことだ。だがそれはBakerの生み出すどっしりとしたグルーヴとも実に相性が良かった。特に壮絶なのは「One In The Bush Is Worth Two In The Hand」である。Skopelitisのギターはセッションが進むにつれてフリーキーさが加速し、同時にBrötzmannの鋭いサックスやLaswellの代役のJan Kazdaのファンキーなピッキングが主張を強めていく。お互いの音楽の領域が時に拮抗し、時に共鳴して拡大していくようなこの不思議な現象は、すべてBakerのゆったりとしたジャズ・ドラムの上で展開されている。
 『No Material』は数あるBakerのカタログの中でも異質な一枚かもしれない。しかし、Creamの時代から培われてきたBakerの遠大なジャム感覚が、フリー・ジャズの世界で一つの到達点を示した瞬間を捉えている点で、真に偉大な傑作なのである。