The Allman Brothers Band – At Fillmore East (1972)
完璧なライブアルバムがこの世にあるとすれば、それは『At Fillmore East』だ。本作はサザンロックの愛好家にとっても、The Allman Brothers Bandにとっても特別な作品である。ギタリストDuane Allmanの持つ実力をフィルモアの常連客以外にもはっきりと知らしめ、本作はバンドの最大のセールスを記録したアルバムとなった。そして同年の10月にDuaneがバイク事故によって急逝したことで、オリジナルメンバーによる最後の作品にもなってしまったからだ。
冒頭を飾るBlind Willie McTellの「Statesboro Blues」という曲は、これまでに2回有名なアレンジ・バージョンが生まれている。本作以前はTaj Mahalのバージョンが定番だったが、Allmansはただでさえ南部的だったそのグルーヴをより豪快なスライドギターで再解釈し、ギターロックの決定版を作り上げた。
実を言えばサザンロックという言葉は苦し紛れな分類でもある。彼らはブルースはもちろん、カントリー、R&B、ひいてはジャズのエッセンスまでも飲みこんでおり、「In Memory Of Elizabeth Reed」の見事なアンサンブルに至ってはクラシックのシンフォニーのような構成美だ。この曲は録音日によってはRudolph Carterがジャズ・サックスとして参加しているテイクも存在する。この美しきジャンルのるつぼこそがサザンロックの神髄といえるだろう。
本作に記録されたあまりにも完璧な演奏はジャムロックの完成系であり、これを凌ぐ作品はそうそう出現しなかった。1990年代に入ってから未発表のテイクなどが追加されるようになり、2014年にはCD6枚組というボリュームで、フィルモアにおける完全な演奏が聴けるようになった。Allmansの演奏はまさに〈歴史的資料〉となったのだ。