Paul Chambers Quartet – Bass On Top (1957)
変幻自在、天衣無縫。ジャズのソロプレイの形容としてはよく使われる言葉だが、こと職人気質であることを求められやすいベーシストという人種の中において、Paul Chambersほどこれらの言葉が似合う男はいなかった。
Miles Davisの門下生として頭角を現したChambersだが、本作では一貫してギタリストKenny Burrellを擁したホーンレスという編成だ。「Yesterdays」のベースソロが素晴らしいのはもちろん、「Confessin'」における軽快なBurrellとの阿吽の呼吸は、多くのアルバムでの共演経験で培われた信頼のなせる業でもある。脇を固めるのはHank JonesのピアノとArt Taylorのドラムだ。いずれもリーダーであるChambersの領域を侵しすぎず、かつ遠慮もしすぎない絶妙な距離感で演奏は進行していく。
テクニカルな早弾きというよりは、圧倒的な存在感をもってセッションをけん引する様が不世出のベーシストたる所以である。Chambersの独特な佇まいのアルコ奏法と、大胆不敵なアルバムタイトルとがお互いに反映しあっているように思えてならない。
ベース・プレイヤーにとっては聖典とも言えるアルバムだが、録音の際はひと悶着あった。業務上の手違いによりChambersのベースがスタジオに届かなかったのである。ミュージシャンとしては絶望的状況だったが、幸運にもDoug Watkinsのベースを調達し、Chambersはたった数時間のセッションでこの傑作を作り上げてしまった。