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Charley Patton ‎– Founder Of The Delta Blues (1971)

 記録上残っているという意味では、現代のポップミュージックの最も源流に位置するブルースマンの一人がCharley Pattonだ。とはいえ、彼の録音が持つ高い価値と評価は、単なる資料的観点から与えられているわけではない。戦前ブルースの世界で最も力強く(非常に聴き取りづらいが)かつ個性的なボーカルと、卓越したギターテクニックは、聴く時代を問わず人々を惹きつけてやまない。
 ミシシッピのコットン畑を襲った虫害の悲劇を歌った「Mississippi Bo Weevil Blues」は、かのLeadbellyもレパートリーにしたことで知られている。パラマウントレーベルは当初、この曲をThe Masked Marvelなる覆面歌手名義のレコードとして売り出す、という一風変わったマーケティング手法をとった。「A Spoonful Blues」は後にHowlin' Wolfが「Spoonful」として決定版ともいうべきレコードを作っているが、Pattonの版からは時代が変わり解釈も大きく異なっているため、もはや別曲と考えていいだろう。水害を歌った「High Water Everywhere, Part 1」はPattonのパーカッシブなギターがさく裂しており、ゴスペルの名曲「I Shall Not Be Moved」は緩急のついた曲の展開が見事だ。
 歌のモチーフは多岐にわたるPattonだが、健康面で苦しんだ30年以降の録音には、自らの境遇によりフォーカスしたような歌詞も目立つ。ボーカリオン・レーベルに残された「Poor Me」は、愛する女性を失いどん底に落ちた人物の嘆きを歌い上げるストレートな哀歌だ。
 Pattonは戦前のアメリカ南部社会を克明に描いた時事性のある曲だけでなく、時代を超えて響く男の悲しみも描いた。この圧倒的な作品群はRobert JohnsonやSon Houseらと並んで、謎と危険な魅力に満ちた戦前ブルースへの入門編として屹立している。