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The Stooges – The Stooges (1969)

 今でこそパンクやガレージ・ロックにおける影響力は多大だが、The Stoogesのファースト・アルバムは決してセールス的成功を収めていない。エレクトラ・レーベルもプロデューサーのJohn Caleでさえも、アン・アーバーの狂犬たちを完璧に手懐けることなどできなかったのだ。
 Caleはレコーディングにも少し参加したものの、自身の音楽性を直接反映させたのはヴィオラでバッド・トリップに誘なう「We Will Fall」の1曲のみだった。あとはRon Ashetonの放つ歪み切ったエレキギターやIggy Pop(当時はIggy Stoogeと名乗っていた)のタガの外れたボーカルに委ねられている。
 当時の過激なステージの伝説を裏付けるかのように、Iggy Popはとにかくがなりたてた。「I Wanna Be Your Dog」ではパンク・ロッカーらしいすさんだメンタリティを吐露し、「No Fun」では自己流のThe Rolling Stonesを表現しようと一心不乱にふるまう。2005年の再発盤にはCale版ミックスや編集前の「Ann」の長尺版などが収録されており、当時のアルバム制作が一筋縄でいかなかった様子もうかがえる。
 サイケデリック・ブルースの流行の裏でひっそりと登場したThe Stoogesの存在は、アメリカン・ロックにとっては家の裏庭で起きたボヤのようなものだった。彼らの起こした火種は、時を経てロンドンのThe DamnedやThe Sex Pistolsにまで飛び移っていき、当のIggy Popがベルリンで再起を始めようとしていた70年代後半には、手の付けられない一大パンク・ムーブメントの大火と化していた。