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Gil Evans – Svengali (1973)

 ほとんど引退状態にあった1966年ごろから数年のあいだ、Gil Evansの関心はNoahとMilesという二人の子宝と、天才ギタリストJimi Hendrixにだけ注がれていた。Hendrixとのコラボはフイになってしまったが、充電期間を経てオーケストラを再び結成したEvansは、精力的なコンサート活動を展開している。アトランティック・レーベルは73年の春に行われた3回の公演を録音したが、これらは1枚のLPを作るには十分すぎるほどの素材だった。
 「Blues In Orbit」のイントロでは、フリー・ジャズの中にスペーシーなサウンドとちょっとした遊び心が添えられており、Evansの柔軟な前衛主義を示す最高のサンプルである。アルト・サックスで熱の入ったソロを執っているのは、当時まだブルース・ロックと縁の深かったDavid Sanbornだ。
  「Eleven」ではMiles Davisとの共作時代に作られた複雑で印象的なメロディを、2分にも満たない疾走感あふれる展開で聴かせている。「Petits Machins (Little Stuff)」のイントロで聴かれたあのメロディだ。古典曲の「Summertime」もDavisとの思い出の曲だが、ここではTed Dunbarのギターが実に哀愁に満ちたプレイを披露する。荒涼とした風音を意識したような「Zee Zee」は、全体的にゆっくりとしたリズムで不気味な雰囲気をたたえているが、"Hannibal" Marvin Petersonの雄々しいトランペットが絶妙なコントラストを生む。
 一心不乱にオーケストラをけん引するEvansの激しい姿は、怪しい呪術師スヴェンガリの名にぴったりだ。実際〈Svengali〉とはEvansの名前のアナグラムであり、このアイデアはGerry Mulliganによるものでもあった。