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Big Mama Thornton – The Way It Is (1969)

 全盛期よりも体重は落ちたかもしれないが、1969年のBig Mama Thorntonが放つストレートなスロー・ブルースは今聴いても衝撃的で、空腹時に聴こうものなら悪酔いしかねない。ハープの名手George Smithやアーフーリーの後輩であるギタリストBee Houstonらを引き連れた彼女は、サイケデリックに沸くロサンゼルスのナイトクラブでコンサートを行った。時代を映すモダンなアレンジもあるが、セットリストは伝統的なシカゴのナンバーを深く掘り下げており、不世出のブルース・ウーマンの個性が一層際立っている。
 スピリチュアル・ソングである「Wade In The Water」は、子供時代を教会で過ごした彼女にとっては重要なルーツを伺わせるものだが、同時にアルバム中で最もファンキーなアレンジが施されたのもこの曲だ。一方でMuddy Watersメドレーでは「Baby Please Don't Go」をJames Brown風のパロディで歌ってしまうシーンさえ存在しているのは、なんというチャーミングな遊び心だろうか。
 SmithもHoustonもそれぞれがソロでアルバムを出し始めようかという時代だった。特に「Sweet Little Angel」の挑戦的なギター・ソロは堂々としたThorntonの円熟味に対しての若々しさを感じさせる。エレキ・ピアノを弾くのは、後にBacon Fatに加入してイギリスへ渡ることになるベテランJ.D. Nicholsonである。
 Thorntonは本作の後にゴスペルに大きく傾倒したレコードを発表し、名門ヴァンガードのブルース作品、さらに日本のピアニスト本田竹曠とのデュエット・アルバムなど興味深い作品を数多く出している。未CD化のものもあるが、いずれも素晴らしい出来栄えだ。