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My Bloody Valentine ‎– Loveless (1991)

 My Bloody Valentineはこの聖典とも言うべきアルバムによって、シューゲイザーというロックの一つのサブ・ジャンルを、ある意味で頭打ちにしてしまった。彼らがレコード会社のオーナーであるAlan McGeeの神経や、クリエイション・レーベルのカネを大いにすり減らしたことを差し引いても、つくづく罪深い作品だ。
 アルバム冒頭からリスナーの耳を突き刺してくるColm O'Ciosoigによるドラム以外は、ボーカルでさえ全てが夢の中をさまようようにぼやけている。しかし、この確かなビートがなければ、ギタリストのKevin Shieldsが生み出す轟音はたちまち空中分解してしまうだろう。O'Ciosoigの存在が、本作にある種の「つかみどころ」をもたらしている。そして、このノイズと轟音の中にかすかに浮かび上がる「When You Sleep」の美しい旋律や、「Only Shallow」のBilinda Butcherの儚いコーラスが、まぎれもない名盤の誉れを本作に与えている。改めて、どぎつい色彩の中にボンヤリと浮かぶこのギターのジャケット写真がすべてを物語っている、と言わざるを得ない。アルバムのサウンドをここまで的確に表現したアートワークは、世界中を探してもなかなか見つからないだろう。
 Shieldsを含め、十数名におよぶエンジニアの名前がクレジットされた本作は、Frank Zappa以来、長年にわたって試行されてきたロックにおけるノイズ・サウンドの一つの到達点に(それも完全な力技で!)たどり着いてみせた。この独特の浮遊感には、60年代から連綿と続くサイケデリック・ロックの系譜を感じることもできるが、これを歴史的に分析するには、本作のサウンドはあまりにも時代性を超越しすぎてしまっている。それゆえか、当時の評論家とリスナーは、総じて本作の美しさにひれ伏してしまい、その後彼らをThe Jesus And Mary Chainと比較するようなことはなくなった。