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? – Beatlemania (1964)

 1964年の初頭にトップ・シックスというイギリスの低予算レーベルから出された『Beatlemania』は、かつてThe Beatlesのようなヒット・メイカーにはつきものだった、いわゆるパチモノ系レコードの一枚にすぎない。ジャケットには演奏者や歌手のクレジットさえ記載されていないにもかかわらず、本作が一部のビートルマニアに興味深く記憶されているのは、ドラムで参加していたのがJimmie Nicolという人物だと後に判明したからだ。
 Nicolは64年の6月に始まったThe Beatlesのコンサート・ツアーに、急病で倒れたRingo Starrの代役で参加したことで、いちやく時の人となったドラマーである。当時Georgie FameのバンドThe Blue Flamesに在籍していたNicolは、Starr風のパワフルなビートを叩ける男として、ツアー用の替えのドラマーを探すGeorge Martinの目に留まった。The BeatlesのPaul McCartneyは、すぐさまバンド・リーダーのFameに直接電話で引き抜きの話をつけ、John Lennonはアビーロード・スタジオでNicolの実際の演奏を聴いてGOサインを出した。こうして彼は、Starrが恢復するまでの10日間という短期ながらも、The Beatlesの臨時メンバーとして正式に迎え入れられたのである。なんとこの交代劇はわずか1日のうちに行われた。
 ひょうたん●●●●●から駒とはこのことである。だがそういった裏話を踏まえると、本作の演奏もがぜん面白くなって聴こえてくるというものだ。「Please Please Me」などは特に見事で、やや不安定なボーカルに対して思い切りのよいメリハリの効いたドラミングが聴ける。「All My Loving」でもStarrの特徴をうまくとらえており、「Money」でのシンバルの激しさはバックのコーラスをかき消してしまいそうになるほど。本作での演奏が代役の直接のきっかけとなったかは定かではないが、このアルバムで最も輝いているのがやはりドラム・パートなのは確かなようである。
 Starr復帰後のNicolの音楽キャリアは大きく成功することはなかった。おそらく最も有名なのはThe Spotnicksのメンバーとしての活動で、66年には来日も果たしており、記念アルバムやライブ盤などでその様子を聴くことができる。