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Kraftwerk ‎– Autobahn (1974)

 ドイツの高速道路をモチーフにした壮大な組曲「Autobahn」は、完全なテクノ・ポップというわけではないが、全く新しいジャンルの価値を世界に認めさせるのに十分な完成度を誇っていた。シカゴのラジオ局では23分のコンセプトを的確に3分半にまとめ上げた編集版がヘビーローテーションされ、デュッセルドルフ発の風変わりなローカル音楽は次第に世界へと発信されていくこととなる。
 車に乗り込むサウンドスケープから始まるこの大曲は、Florian SchneiderとRalf Hütterの作り出す印象的なフレーズの反復と、詩人Emil Schultによる言葉のミニマリズムで構成されている。ドイツ語でドライブを意味する〈Fahr’n Fahr’n Fahr’n〉とは、The Beach Boysの陽気なアメリカン・ロック「Fun Fun Fun」に掛けたオマージュであり、無邪気な言葉遊びは感情を排したボーカルによってシニカルにも、あるいはよりコミカルにも捉えることが出来るだろう。Schneiderの美しいフルートは前作『Kraftwerk 2』でも見られた要素でもある。
 「Mitternacht」においてKlaus Röderのエレキ・バイオリンは夜の静かな暗闇を表現し、また「Morgenspaziergang」では小鳥のさえずりとフルートが朝の穏やかな風景を見事に再現している。レコードの中には非常に明確な音像が描かれているが、後にコンピュータの世界に没入していくKraftwerkにとって、こうした有機的なサウンドを作った例は本作がほとんど最後だといっていい。
 Schultは印象的なアートワークも提供しており、特に初期のジャケットにあしらわれたバックミラーには、まだヒッピー風が抜けていなかったメンバーの姿さえ映っている。現在ではJohann Zambryskiによる意匠(ドイツ盤のステッカーに使われていたもの)に置き換わっており、Kraftwerkのフィリップス時代の諸作と同様に振り返られることはほとんど無い。