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Tim Hardin – Bird On A Wire (1971)

 ヴァーブ・レーベル期のおわり頃からコロムビア・レーベルにかけてのTim Hardinの創造性の高まりは、もはや比類のないレベルにまで達していた。それでもなお彼の詞は安らぎを求める朴訥な男のつぶやきであり続けており、作品の構成はコンセプチュアルでも、その内容はパーソナルなものが多かった。
 68年のライブ・アルバムで既にジャズの文法を身に付けていたHardinは、時にスムースに、時にファンキーに歌い上げている。そういった意味ではJoe HayesとJack Rhodesの書いた「A Satisfied Mind」や、John Lee Hookerのブギを下地にした「Hoboin'」といったカバー曲のアレンジは非常に興味深い。
 アルバムには多くのジャズ畑のミュージシャンが参加している。中でも本作へ多大な貢献をもたらしている人物としては、前回のライブ・アルバムに参加したMike Mainieriや、編曲も手掛けているJoe Zawinulが挙げられる。一流のジャズ・マンたちが仕上げた極上のサウンドの中で、Hardinは彼のキャリアの中で最高ともいえるボーカル・パフォーマンスを繰り広げている。まずLeonard Cohenによるタイトル・トラックの中で彼は、人生の全ての過ちを懺悔するように歌声を絞り出していて、「Georgia On My Mind」は広く知られるRay Charlesのバージョンよりも、どこか晩期The BandのRichard Manuelの枯れた魅力をほうふつとさせる。
 オリジナル曲の少ない本作だが、ラストを締めくくる「Love Hymn」は聴く者の心を強く打つ。これほどのアルバムがヒットしなかったのはつくづく不思議だが、本作にはフォークとジャズの美が完璧な形で刻み込まれている。