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The Beatles – With The Beatles (1963)

 多忙を極めるスケジュールのあいだを縫って、1963年の7月から10月にかけて行われたThe Beatlesのレコーディング・セッションからは、アルバム『With The Beatles』とシングルの「I Want To Hold Your Hand」が生まれている。前者は先行シングルが無かったにもかかわらず、あっという間に前作の『Please Please Me』を抜き去って英国アルバム・チャートのトップに踊りだし、後者はリリース前の予約だけで100万枚のセールスをたたき出して見せた。彼らの当時の人気ぶりがうかがい知れる。
 初期の傑作「It Won't Be Long」や「All My Loving」は、イントロを挿入せずにいきなりJohn LennonとPaul McCartneyの歌声から始まる演出がなされているが、この思い切りの良さは演奏、ひいてはアルバム全体のムードをぐいぐいとけん引する。カバー曲ではChuck Berryの古典「Roll Over Beethoven」のようなギター・ロックがある一方、特に印象に残るのはタムラ、モータウンの名作の数々だ。「Please Mister Postman」や「Money」はLennonのソウルフルなボーカルに、「You Really Got A Hold On Me」はGeorge Harrisonのコーラスとのあいだに生まれる素晴らしいハーモニーに、それぞれ心を奪われる。
 こうした初期の彼らの特徴であるロックンロールとソウルのブレンドが冴えわたっている中で、Harrisonの作品が初めて収録(「Don't Bother Me」)されたり、Lennon-McCartneyがThe Rolling Stonesへ提供した「I Wanna Be Your Man」をRingo Starrのボーカルでセルフ・カバーするなどの試みが見られるのもまた興味深い。このレコードの魅力を押し上げているもう一つの大きな要素は写真家Robert Freemanによるモノクロのアートワークで、印象的な構図の中でたたずむメンバーの姿には、凛々しさと同時に一流アーティストとしての不敵ささえも感じられる。