金大煥 & Kim Trio – 드럼! 앰프키타 고고! (1972)
趙容弼は韓国の国民的歌手として活躍する以前、米軍基地に出入りする無名バンドのメンバーのひとりに過ぎなかった。将来大物となる趙に惚れ込んだのがドラマーの金大煥で、彼がギタリストとして引き抜かれたのは1970年ごろだという。もともとジャズ出身の金は、より自由度と即興性の高い音楽を志向するために当時としては最先端の編成であるパワー・トリオ〈Kim Trio〉を結成した。
72年に趙はソロ歌手としての最初のLPを発表するが、それと同時期にKim Trioの名義で録音された完全インスト・アルバムが本作だ。曲名は総じてハングル表記であるものの、中身を聴けばThe BeatlesやJosé Felicianoなど当時の韓国で演奏されていた様々な欧米のポップ音楽が取り上げられているのが分かることだろう。
演奏は金のドラム・ソロを中心にしながらも、ホーンやキーボードもふんだんにフィーチャーして、親しみやすいジャズ・ロックを展開している。冒頭の「꿈을 꾸리」などは前述の趙のLPのレパートリーで、「사랑은 오직 하나」では典型的なトロットを聴かせている。だがやはり本作で特筆すべきは、随所で響くトガッたファズ・ギターの主があの趙容弼である、という信じがたい事実に尽きる。
João Donatoの「Aquarius」のカバーはジャズマンの金らしい選曲だ。変拍子で有名なBlind Faithの「Do What You Like」のイントロでは、同じく5拍子の名曲「Take Five」を意識しているのも分かる。アレンジも優れており、特に「Get Back」は疾走感のあるブラス・ロックに生まれ変わっている。イタリアン・ポップの「La Pioggia」とFelicianoの「Rain」はどちらも雨をテーマにした人気曲で、特に前者はPearl Sistersが60年代に韓国内でヒットさせたものだ。
演奏は決して革新的なものではないが、趙の初期キャリアにおける特異点として、本作には文化財級の価値と驚きがある。