Speed, Glue & Shinki – Eve (1971)
日本の70年代ロックでも傑出した存在であるSpeed, Glue & Shinkiは、Food Brainと並んで同国の最初期のスーパー・グループのひとつと言って差支えない。The Golden Cupsでのグループ活動で成功していた加部正義と、本作の同じ年にはすでにソロ・アルバムを発表していたギタリスト陳信輝が新たなバンドを組んだことで、アトランティック・レーベルのビジネスマンたちはたいそう息まいていた。アルバムの帯では日本における〈世界的なハード・ロック〉の誕生が高らかに宣言されたが、いざフタを開けてみれば『Eve』は史上類を見ないほど濃厚なドラッグ・アンセムが飛び出す一大サイケデリック・アルバムだった。そんなことはバンドの名前を見れば誰でもわかることではあったのだが。
彼らは冒頭からThe Velvet Undergroundをオマージュし、ストリート感覚に満ちた「Mr. Walking Drugstore Man」でアルバムの冒頭を飾っている。一方で「Big Headed Woman」はブルースにおける伝統を実直に守っているし、続く「Stoned Out Of My Mind」では強力なリフを中心に陳のギターが暴れまわる。ハード・ブルースのバンドが求められるものはA面で完璧に提供されてしまうが、本作にはFood Brainの残り香であるアヴァンギャルド(「M Glue」)や、アシッド・フォークの名作(「Someday We'll All Fall Down」)もあり、飽きることがない。
実際のところ本作の方向性は、3人のうち唯一無名の存在だったドラマーでソング・ライターのJoey Smithに負ったところが大きかったが、サウンドのバランスはまさに完璧といえる。個性と我の強いメンバーたちには常にトラブルがついて回り、自身の名を冠したセカンドを発表してSpeed, Glue & Shinkiは分裂する。だがこれほどのバンドが2作ものアルバムを発表したこと自体が、奇跡にも近い偉業だ。