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Johnny Cash – At Folsom Prison (1968)

 "Hello, I'm Johnny Cash"。ぶっきらぼうなあいさつで幕を開けるJohnny Cashの『At Folsom Prison』は、当時薬物中毒や結婚生活の破綻によって低迷していた彼のキャリアをかつてない地位にまで押し上げた。Cashは1950年代の後半から合衆国の各地にある刑務所で慰問コンサートを行っており、コロムビア・レーベルのプロデューサーに型破りなBob Johnstonが新たに就任したのをきっかけに、ライブ・アルバムとして録音するアイデアを持ちかけることにした。
 オープニングは55年のヒット曲「Folsom Prison Blues」で、エキサイトするCashのシャウトやLuther Perkinsのうっとりするようなエレキの響きによって、会場は信じられないような熱狂に包まれていく。Cashと囚人たちとの気さくなやり取りや、看守による曲間のアナウンスは、Johnstonの慧眼によってカットされずに収録された。おかげでこのLPはまるで一本のドキュメンタリー映画のような風合いに仕上がっている。特にドラマチックなのはクライマックスの「Greystone Chapel」だ。当時実際にフォルサム刑務所に入所していた囚人Glen Sherleyの書いたゴスペル・ナンバーで、Cashはこの曲を本人の前でサプライズで演奏した。
 本作には大ヒット曲であるラブ・ソング「Ring Of Fire」などは入っておらず、収録曲の多くが「Dark As A Dungeon」や「25 Minutes To Go」のように、罪への悔恨、そして懺悔と救済を歌っていて、囚人たちに披露するレパートリーが慎重に選ばれたのがよく伝わってくる。そんな中でもスリリングなハープが響く「Orange Blossom Special」や、後に妻となるJune Carterとのデュエット(本作の録音から発売までの間にCashは彼女にプロポーズをした)である「Jackson」の盛り上がりも本作の聴きどころである。
 レコードに刻まれた全ての音が生々しく迫ってくる。はみ出し者への愛と慈悲に溢れる『At Folsom Prison』はアウトロー・カントリーの永遠の名盤であり、後年にはトリプル・プラチナに認定され、二日に渡るショーの完全盤も発売された。