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MC5 – Kick Out The Jams (1969)

 〈マザーファッカー〉という素晴らしき世界共通語は、少なくとも1969年まではある程度の力を持っていたのだろう。アメリカの方々から非難を受けたレコード会社のエレクトラは、本作の発売直後に「Kick Out The Jams」のイントロで放たれたこのセリフを慌てて修正した。
 ボーカルのRob Tynerの怒号に近い演説からなだれ込む「Ramblin' Rose」や「Kick Out The Jams」の持つ爆発力には、もはや説明の余地すらない。MC5が単なるパンクバンドであると断ずることができない理由は、「Motor City Is Burning」のチープだが重量級のブルース精神やサイケデリックな大曲「Starship」にこそ隠されている。
 1967年にJohn Lee Hookerが歌った「Motor City Is Burning」は、ベトナム戦争と地元デトロイトに思いを馳せた政治的な哀歌である。「Starship」は、フリージャズの大家であるSun Raの詩にインスピレーションを受けた一大アシッド組曲(カバーというよりトリビュートと呼んだほうがふさわしいのだろう)だ。いずれも政治とジャズに憑かれたJohn Sinclairの趣味とぴったり符合しているのが興味深い。
 前述の曲折を経て、結果的にThe Stoogesと並び〈パンクの原点〉と呼ばれるだけのハクが本作に付いたのは確かだ。だが、政治、感情、怒号とジャズのるつぼとなったこのアルバムを一言で形容するのは困難である。実際にそれを判断するのはレコードに針を落とす本人だ。