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Ian Carr with Nucleus – Solar Plexus (1971)

 後にSoft Machineで活躍するKarl JenkinsやJohn Marshallといったメンバーを擁したNucleusは、トランぺッターIan Carrを中心に完璧なアンサンブルを作り出していった。重度のMiles Davisフリークで、後年Davisの評伝も執筆したCarrは、『Bitches Brew』とほぼ同時期にフュージョンの驚異的な傑作『Elastic Rock』を録音している。Nucleusは結成時からすでにイギリスのジャズ・シーンにおいて重要なグループとしてみなされており、翌年発表の『Solar Plexus』は、同国の芸術評議会からの経済的な助成を受けて作られた数少ないロック・レコードとなった。
 Nucleusの可能性は本作でさらに広がっている。Kenny Wheelerらが加わってホーン・セクションがより分厚くなったのはもちろん、Keith WinterのVCS3シンセサイザーのしなやかな音が、バンドのサウンドに確かな深みをもたらした。より『Bitches Brew』らしくなった、と言う者がいればそれまでかも知れないが、たとえそうだとしても、ヘヴィなメイン・テーマとファンキーな演奏のコントラストが素晴らしい「Changing Times」や、エキゾチックで妖しい雰囲気の「Bedrock Deadlock」が持つ魅力が損なわれることはない。
 「Torso」では、疾走するBrian Smithのソプラノや扇動的なMarshallのドラム・ソロが輝いている。15分に及ぶラストの「Snakehip's Dream」では、Chris Speddingの巧みなカッティング・ギターをバックにして、メンバーの緊張と熱気に満ちたやり取りが、生々しく聴く者の耳に迫る。
 『Solar Plexus』からバンド名にCarrの名前を冠するようになったNucleusは、メンバーや音楽性の変遷などをたびたび経ていくことになる。変わらなかったのはCarrの持つ統率力とカリスマ性だけだった。