Charles Mingus – Pithecanthropus Erectus (1956)
Charles Mingusが初めて本格的なグループとして結成したThe Jazz Workshopによるアルバム『Pithecanthropus Erectus』は、主に2つの点で時代の先駆けとなった。一つ目は公民権運動が本格的になりつつあった時代に白人優越社会に対する反抗を、ジャズという武器を以って表現していること。そして、結果的にその音楽はフリージャズの誕生に先行することになる。まさに驚くべき先進性だ。
「Pithecanthropus Erectus」は組曲の形式をとり、ヒトが二足歩行を始めてから文明を得、そして滅亡するまでをフリーキーな即興をふんだんに交えて表している。3拍子のリズムが登場するカオスな場面もあるが、明確な主題のリフレインがあるおかげでMingusのメッセージははっきりとリスナーに伝わる。アルトのJackie McLeanとテナーのJ.R. Monteroseは全くスタイルの異なるプレイヤーだが、Mingusは入念なリハーサルによってメンバーそれぞれが持つ「太古の記憶」を引き出して見せた。
George Gershwinによるクラシック「A Foggy Day」は警官の吹く笛やクラクションといった具体的なサウンド・モチーフを以って町の情景を描く。穏やかな「Love Chant」では怒りを捨てて、ピアニストMal Waldronのバッキングとともに伸びやかなソロを聴かせてくれる。
Mingusは本作でただ感情に任せた社会批判をしたのではない。緻密な曲の構成やメンバーのマネジメント、さらには古代壁画をほうふつとさせるジャケットのビジュアルに至るまで完璧を期している。聴けば聴くほど深みにはまっていくアルバムなのだ。