見出し画像

Iggy And The Stooges – Raw Power (1973)

 エレクトラ・レーベルから発表したアルバムを認めてもらえなかったIggy Popは、盟友David Bowieの力を借りてイギリスへと渡った。そしてThe Stoogesのメンバーと再び合流した彼は、恐ろしい暴力と怒りに彩られた『Raw Power』を産み落とした。このプロト・パンクの名盤が録音されたのは意外にもデトロイトではなく、プログレが一世を風靡していたロンドンのCBSスタジオだった。
 「Search And Destroy」はベトナム戦争における殲滅作戦の名を引用した最も攻撃的な一曲だ。「Shake Appeal」の中ではIggy Popはとことん踊ることだけを追求し、「Your Pretty Face Is Going To Hell」でのJames Williamsonは鼓膜をつんざくような狂ったギターを弾きまくる。「Penetration」のチェレスタの音色やサイケデリックな「Gimme Danger」で響くキーボードのメロディのように、最小限の音楽的演出は確かに含まれているが、このアルバムでは技術とか表現力といったたぐいのものよりも、衝動と感情、あるいはむきだしの欲望が優先されている。
 セッションでは他に「I'm Hungry」のような獰猛なナンバーも何曲か生まれたが、最終的に8つの曲が絶妙な緩急で1枚のレコードに落とし込まれた。また、現在主流となっているのはファンになじみの深いBowie版のミックスではなく、後にIggy Pop自身がリミックスし、よりパンクらしいラフな雰囲気を増したバージョンだ。2010年のコロンビア・レガシー再発盤では前述のアウトテイクを、2012年のアナログ再発盤では新旧のミックスを聴き比べることができる。とにかく『Raw Power』というアルバムが、それだけの手間をかけて聴きこむ価値が大いにある作品であることは保証しよう。