John Coltrane – A Love Supreme (1965)
John Coltraneはジャズ・ミュージシャンであると同時に限りない求道者であり、悟りの境地に達した彼が作り上げた『A Love Supreme』は、演奏の美しさ、構成、革新性どれを取ってもあらゆる音楽芸術の到達点と言えるものだ。Miles Davisのグループから出世した後、インド、アフリカ、中東といった非西洋音楽のリズムを取り込んでいった彼独自のサウンドは、宗教的な観点から愛を描く4篇の壮大な組曲として結実した。
作中Coltraneが修行僧のように何度も反復する表題のフレーズ。これは第一部「Acknowledgement」の中間部で計19回唱えられる。19という数字はユダヤの教えにおいて非常に神秘的な意味合いを持ち、神殿で行われる祈祷の数にも等しいという。また本作はこうした宗教的な難解さと同時に、比類のないほど聴きやすいアルバムに仕上がっているのだが、それはJimmy Garrisonの奏でるメイン・テーマの明確さのおかげでもある。さらに、Elvin Jonesの痛々しいまでに感情的なドラムや、祈りのように美しいMcCoy Tynerのピアノという布陣もまた完璧で、まるで自分の全てを捧げるかのように叫ぶColtraneのサックスに、彼らはぴったりと寄り添っている。嵐のように激しい彼らの演奏を聴くだけでも多くのリスナーが疲労困憊させられるはずだが、その消耗の先に待っているのは第四部「Psalm」のえもいわれぬ心穏やかな光景だ。
ビルボードのリストにこそ載らなかったが、モダン・ジャズの一つの完成形を導き出した『A Love Supreme』は、発表後の5年間で50万枚を売り上げた。本作以降、フリー色を強めて新たなステージへと移行したColtraneは、SantanaやChristian Vanderなどプログレッシブ・ロック世代の若いミュージシャンからも崇拝される存在となった。