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Canned Heat – Vintage (1970)

 Johnny Otisのプロデュースによる本作は、Canned Heatの人気が絶頂にあった1970年に発表された、最初期の貴重なデモ音源集だ。完全なオリジナル曲は無くトータルで25分にも満たない短さだが、テクニックとセンスに裏打ちされた上質なカバー曲の数々は聴いていて実に頼もしい気分にさせてくれる。ここでは、あえて大きなアレンジを加えていないところにバンドの実力が活き、また価値が生まれているのである。
 トラック・リストを見れば、シカゴの古典を中心に曲目が組まれているのが分かる。ギタリストとして知られるAl Wilsonのハープが強力にフィーチャーされた「Rollin' And Tumblin'」のテイク2はもちろん、ジャングル・ビートを取り上げた「Pretty Thing」のようなR&Bナンバーは、ファンにとっては掘り出し物だ。ちなみに前者は、Muddy Waters風のパワフルな低音のスライド・ギターも聴き逃せない。一方で、「Dimples」では彼らのオハコであるブギーがしっかりと完成しているのが分かるし、Elmore Jamesの永遠の傑作「Can't Hold On Much Longer (Talk to Me Baby)」におけるスライドとBob Hiteのボーカルの完成度は、ブルース・ロックの歴史の中でも五本の指に入ると言っても過言ではない。レコードのクレジットでは"Little Walter" Jacobsの名が誤記されているが、言うまでもなくこの曲の作者はWillie Dixonである。
 『Vintage』のセッションにおける作風は、彼らのファースト・アルバム『Canned Heat』に受け継がれている。この突きつめたブルース古典主義は、バンドの音楽性の根っこそのものでもあるのだ。