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Wayfarer – A Romance With Violence (2020)

 スイスのZeal & Ardorが2016年に発表した『Devil Is Fine』はあまりにも革新的でとっぴなサウンドだった。BurzumとAlan Lomaxのアーカイブ音源を掛け合わせたようなその作風は、ブラック・メタルという音楽の懐の深さ、もしくは底知れなさまでも再認識させた。そして同時期にまた別のアプローチでアメリカの古典とアトモスフェリック・ブラックを取り合わせていたのがWayfarerだった。
 彼らの4枚目のフル・アルバムには、アメリカ西部に吹く荒涼とした空気と、Agallochに似たかぐわしささえ錯覚するような幽玄な音が漂っている。カントリー・ミュージックの郷愁が神秘的な轟音によって見事に引き立っているが、これは間違いなく彼らの集大成のサウンドだ。
 大陸横断鉄道の蒸気機関車を指す「The Iron Horse」は、アルバムの中でも最も激しく力強い2部作の一篇で、開拓と常に共にあった暴力を象徴する一曲でもある。「Masquerade Of The Gunslingers」ではコアな底力も見せつけるが、白眉はラストの大曲だろう。カウボーイの奏でるようなギターとポスト・ロック的トレモロ、そしてブルータルなシャウトで構成される「Vaudeville」は、真っ赤なジャケットに映った光景を的確に表現している。
 『A Romance With Violence』の持つこの美しい整合性は、単なるステレオ・タイプ的なウエスタンの解釈にとどまらない、真摯なサウンドの探求の成果である。生粋のアメリカン・バンドにしか出せない音は、驚くことにまだ存在するのだ。