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Faces – A Nod's As Good As A Wink... To A Blind Horse (1971)

 職人気質のRonnie Laneを擁したモッズ・バンドSmall Facesは、Steve Marriottと決別したあと、天性のボーカリストRod StewartとThe Rolling Stones加入前夜のRon Woodの参加によって最もルーズかつアーシーなロック・バンドへと変貌した。
 彼らの三作目のアルバムのタイトルは、邦題だけでは分からないが実は粋な英国風のジョークだ。表の『A Nod's As Good As A Wink…』というフレーズは、これだけだと日本語で言うところの〈以心伝心〉を表すのだが、ジャケ裏の『To A Blind Horse』というフレーズが付け足されることで〈馬の耳に念仏〉という意味になる。
 Stewartの存在感は抜群ながらも、Laneの筆による「You're So Rude」や「Debris」では彼自身がボーカルを執るなど、驚くべきことにFacesのメンバー間の比重には全く偏りがない。「Last Orders Please」でIan McLaganのバレルハウス・ピアノは真骨頂を見せる。Kenny Jonesのロック然としたドラムがそれを引き立てることで、Facesというバンドの絶妙なバランスを構築してみせた。
 Woodのギターがさく裂したハイライト「Stay With Me」における、エンディングのけたたましいジャムに流れ込む展開や、Chuck Berryによるロックンロールのカバー「Memphis」は、まるでライブ会場で演奏しているようなラフさを湛えている。アルバムを締めくくる「That's All You Need」のフェードアウトも、それを踏まえれば確信犯的な演出にも思えてくるから不思議だ。
 彼らの音楽的な結束力がStewartのソロ・ワークの成功によって崩れてしまう以前の、最高に均衡した瞬間を本作は捉えている。これはバンドというものがナマモノであることの何よりの証明でもあり、Facesひいてはロックの歴史に残る名盤たりえた所以ともいえる。