見出し画像

Arvella Gray – The Singing Drifter (1972)

 生まれのテキサスからシカゴに流れ着いたArvella Grayはマクスウェル・ストリートの名物ギタリストであり、かつては一つにとどまることの出来ないいわゆる〈ローリング・ストーン〉だった。彼は麻薬の売人や強盗に手を染め、挙句の果てには間男に銃撃され両目と左手の指を吹き飛ばされた。
 自身の語る激動の半生がどこまで真実かは疑わしいが、不自由な手のためにオープン・チューニングしたスライド・ギターと持ち前のパワフルな歌声が彼のトレードマークだということは、このレコードで確かに知ることが出来る事実である。
 「There's More Pretty Girls Than One」はブルーグラスの世界では有名なラブソングで、今にも泣きだしそうなGrayの歌声を聴くと、ギターのメロディにまるで胸をかきむしられるような気分になる。レパートリーの中で最も優れた曲に「John Henry」を挙げられるブルースマンは多いが、Grayもその一人である。このLPでは7分にも及んで伸びやかに歌っている。
 「When The Saints Go Marching In」は誰もが知るゴスペルだ。Grayはストリートの演奏風景を再現するようにハレルヤの掛け声を時おり挟んでおり、独自のスタイルが確立されていたことがうかがえる。「Arvella's Work Song」や「Gander Dancing Song」では手拍子で古典的なハラーを実演するなど、ブルース愛好家にとっては非常にサービス精神にあふれた録音と言える。