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「フェルマーの最終定理」を巡る数学者の闘争が実に興味深い

非常に面白い本なので,紹介しておきたい.素っ気なく言ってしまえば,数学の小難しい定理の1つが証明されたというだけのこと.それをこれだけドラマティックに描く著者の力量には脱帽だ.もちろん,一般読者が,現代数学の粋を集めたアンドリュー・ワイルズの証明をその一部であっても理解できるはずもない.それでも,本書を読めば,フェルマーの最終定理が数学界で持つ意味,その証明の難しさと意義,フェルマーの最終定理を証明しようと試みてきた数多くの数学者のアプローチ,そしてアンドリュー・ワイルズの挫折と成功を,理解したつもりになれる.

サイモン・シン(Simon Singh),「フェルマーの最終定理」,新潮社,2006

本書「フェルマーの最終定理」が素晴らしいのは,フェルマーの最終定理にまつわる物語を,歴史を遡って徹底的に調べ上げているところにある.本書には数多くの数学者が登場するが,古代ギリシアのピタゴラス教団にはじまり,古代エジプトのエウクレイデス(ユークリッド)による「原論」,ディオファントスによる「算術」,そして暗黒時代を経て,中世ヨーロッパ以降のオイラー,ラグランジュ,ガウス,ヒルベルト,コーシー,フーリエ等々,フェルマーと同時代の数学者もそうではない数学者も含めて,まさにオールスター状態である.しかも,彼・彼女らの数学上の業績だけでなく,その生き様も魅力的に語られており,興味をそそられる.

そして,とても嬉しいのが,フェルマーが書き残した定理をめぐる300年以上にわたる数学者の闘争をまとめた本書において,4人もの日本人数学者が登場することだ.特に,谷山=志村予想については,その数学上の重要性が極めて高く評価され,本人の写真やインタビューも含めて,随所に登場する.

それにしても,8年間も一人で答えがあるかどうかもわからない難問に挑むというのは,凄い根性だ.たとえ,その問題を解くのが子供の頃からの夢だったとしても.世の中には凄い研究者がいるものだ...

本書では,フェルマーの最終定理以外にも様々な問題やパズルが紹介されており,それらも興味深い.こういう科学ドキュメンタリーのような本を中学・高校くらいで読めば,科学に興味を持つようにもなるのではないだろうか.

サイモン・シン(Simon Singh),「フェルマーの最終定理」,新潮社,2006

© 2020 Manabu KANO.

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