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「成功の実現」に書かれた中村天風の体験談が凄い

波瀾万丈な人生から独自の成功哲学を導き出した中村天風氏の講演録.タイトル通り,成功するための方法が示されているのだが,それよりも,天風氏の体験談が凄い.何某と話をしてね・・・の相手が山本五十六だとか,病気を診てもらったのが北里柴三郎だとか…

講述者の中村天風氏は,16歳にして軍事探偵(大日本帝国陸軍諜報員)となり,満州へ赴いた.日露戦争時には,松花江の鉄橋を爆破したり,仕込杖で馬賊と斬り合いを演じるなどして,「人斬り天風」と呼ばれたそうだ.

戦後,急性の肺結核にかかり,北里柴三郎の治療を受けたものの,良くならなかった.死と隣り合わせの状況の中,いかに生きるべきかの答えを求めて,アメリカへ密航する.アメリカでは,著名人に会うかたわら,コロンビア大学で医学を学んだ.さらに,イギリス,フランス,ドイツなどで,多くの著名人を訪ねて話を聞くも,満足のいく答えは得られず,失意の中,帰国の途に就く.

日本を目指しての船旅の途中,アレキサンドリアでカリアッパ(ヨガの聖人)と出会い,誘われるままにヒマラヤについて行き,修行を行った.長い修行の末,肺結核は治癒し,悟りを開いたという.

帰国後は,東京実業貯蔵銀行頭取や大日本製粉(現・日清製粉)役員となるなど,実業家として活躍した.ところが,大正8年,すべての地位をなげうって,辻説法で生きることを決意する.

成功の実現
中村天風,日本経営合理化協会出版局,1988

本書「成功の実現」で,中村天風氏は,幸せな人生を生きるために最も大切なことは「積極的であること」だと述べている.心が積極的であれば,人生はどのような場合にも明朗,颯爽溌剌,勢いに満ちたものになると.生活の中では,いつもできるだけにこやかにして,どんな些細なことでも感謝を先にして,喜びでそれを迎えれば,世界は黄金花咲く爛漫たる喜びの花園になると述べている.

そうは言うものの,具体的にどうしたらいいかがわからなければ実践するのは難しい.「成功の実現」で中村天風氏が語るのはその具体的な方法である.

積極的に生きるためには,言葉に気を付けなければならない.絶対に消極的な言葉,否定的な言葉,悲観的な言葉を口から出さないようにする.

それでも,病気になるなど,不運を嘆きたくなることがあるかもしれない.しかし,自分の身に起こるすべてのことは,原因あっての結果である.病も不運も,自分の生き方に誤りがあったがための結果として現れる現象だということを認めなければならない.運命も健康も自己に絶対の責任があると覚悟しないかぎり,自分の力で好転させられるはずがない.

このあたりは,「原因と結果の法則」そのものだ.ただし,受け売りではなく,中村天風氏は全身全霊でそれを真だと認めて,説いている.

積極的に生きるためには,潜在意識が消極的観念で満たされていてはいけない.そこで,心の中を掃除する.具体的には,夜寝る前に,消極的なことは一切思い出さず,ありがとうと感謝する.(観念要素の更改)

ストレスで病気になるように,感情や感覚は心に影響を与え,ときに生命が大きな損害を受ける.感覚や感情が悪影響を及ぼさないように,感覚や感情の衝撃を受けたら,1)肛門を締める,2)お腹に力を込める,3)肩を落とす,を実践する.そして,深呼吸する.そうすることで,感覚や感情の刺激衝動を心が感じても,神経系統は影響されない.(神経反射の調節)

自己暗示も有効とされ,「自分は信念が強い」と,鏡に向かって自己暗示するとよいとされる.手鏡を持ち歩いて,いつも自分の顔を見ながら自己暗示をせよと.

中村天風氏がヒマラヤで悟ったことのひとつが,自分の本体は霊魂であり,体と心は生きるための道具であるということだ.道具なのだから,体も心も自分の思うとおりに動かせなければならない.ところが,体は自分の意志で動かせても,心を操れない人が多い.自分を知らず知らず心の奴隷にしているために,年中,煩悶や苦悩の虜になっている.積極的に生きるためには,心に振り回されているようではいけない.体と心を自分の思うとおりに動かすためには,他人を見るように自分の体と心を客観的に見なければならない.

心の使い方については,気を散らさず心をはっきり使わなければならないと述べられている.はっきりした気持ちで諸事万事に応接する,何事をも自覚的に意識するということだ.些細なことであっても,ぼやっとしていてはいけない.

さらに,心は万物をつくる宇宙根本主体(造物主)の無限の力を自分の生命に通ずるパイプと同様なものであるから,心が積極的であれば健康も運命も良くなる.心を磨けとも.

日露戦争時の体験などを織り交ぜながら,心を積極的にして,幸せに生きるための方法を述べる中村天風氏だが,その基盤になっている信念について,こう述べている.

正しいことをしている人間に正しからざる出来事の生ずるはずはない.

だから,鉄砲の弾も自分には当たらないという.

霊魂のままに生きれば,悔いも恐れも,心を動かすものは何もない.
真理に即して生きさえすれば,黙って丈夫になれて,黙って運命がよくなるに決まっている.

さらに,意志力が重要であるとも語られている.

意志力を一日も早く完全に出しうる人間になることを努力しなさい.
意志は霊魂から出る.

その意志に,自分の思考が積極的であるか消極的であるかを判断させよ,心に判断させるなとある.さらに,苦労するな,苦をなお楽しみにせよ,それには意志力の煥発が必要だとも.人間関係においては,積極的な人と交われと.

そして,「成功の実現」のためには,信念が重要であり,念願を心に映像化すること,自分の心にはっきりと描くこと,そして,その絵を決して消さず燃やし続けることが推奨されている.これは,潜在意識の力を顕在意識が操るためで,絶え間なく心にはっきりとした映像を描けば,その念願は現実化するということだ.

このあたりは,「引き寄せの法則」そのものだ.

映像が気高いか汚いかで人生の価値が変わる.

成功哲学あるいは自己啓発の本ではあるのだが,最初に書いたとおり,中村天風氏の体験談が物凄いので,それだけでも楽しめる.

自己欺瞞で人生を過ごしてしまったのでは,二度繰り返すことのできないこの人生,もったいないです.

人生,二度なし.

いくら本を読んでも,それだけでは意味がない.実践あるのみ.

© 2021 Manabu KANO.

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