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基礎研究の対極は非基礎研究じゃないの

私が大学院修士課程に在学していたか,あるいは修士課程を修了して助手(今の助教)になりたての頃,当時のボスから聞いて,とても印象に残った話がある.

なあ,加納君,研究者って自分の研究を基礎研究か応用研究に分類しようとするものだ.でも,基礎研究の反対が応用研究か.そう思うか.本当は,そうではないだろう.基礎でないものは非基礎だ.応用でないものは非応用だ.世の中には,非基礎研究もあれば,非応用研究もある.で,加納君はどんな研究をするんだ.遠慮せず,何でも好きな研究をやったらいい.ただし,非基礎かつ非応用な研究に手を出したらダメだぞ.

だいたいこんな感じの話だった.研究を始めたばかりで,博士後期課程にも進学していないし,右も左も分からないような状況だったが,「非基礎かつ非応用な研究に手を出したらダメだぞ」という訓示は強烈だった.

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その直後からではなかったはずだが,私は応用研究に特化するようになっていた.しかし,25年以上も前の大学では,企業との共同研究は白い目で見られた.そんなのは企業でやればよくて,大学の研究者がやるべきことではないというわけだ.それでも,実際の課題を解決する,それも自分が編み出した方法で課題を解決するというのがとても楽しかったので,応用研究に没頭するようになった.徹底した応用研究に取り組んでいる限りは,非基礎かつ非応用な研究に陥る心配はないという気持ちもあった.

今では,産学連携なんて当たり前になった.世の中,変わるものだ.

さて,ここで紹介した,基礎研究と非基礎研究,応用研究と非応用研究,の話には元ネタがある.それは「国立環境研究所のこれから」(市川惇信,1992)という文章だ.実は,当時,国立環境研究所にボスの友人がおられて,その方がこの文章を紹介して下さったらしい.そこには次のようなことが書かれている.

基礎研究とはブレークスルーを生み出す研究である.ブレークスルーの対立概念はインクリメンタルである.これを「非基礎」といおう.

応用研究とは,人類の持つ知見を人類にとって有用な知見に変換する研究である.応用の対立概念はしたがって「非応用」である.当然のことながら,応用研究の中にも基礎研究は存在し,逆も真である.

我々は第IV象限の研究を行わないこととしよう.

第IV象限の研究とは,非基礎かつ非応用な研究であり,そのような研究はするなというのが,ボスの教えだった.徹底的に役立つ研究に拘るのには,その影響を受けているからだ.もちろん,それだけではなく,社会貢献するという信念が,現実の問題を解く応用研究へと自分を向かわせている.

大学生や大学院生には好きな研究に取り組んで欲しいし,研究を楽しんで欲しいし,願わくば素晴らしい研究成果をあげて欲しい.そして,研究を始めるとき,研究を続けるときに,基礎研究と非基礎研究,応用研究と非応用研究の話を思い出して,自分の研究を位置付けてみると,何かしら気付くことがあるかもしれない.

© 2020 Manabu KANO.

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