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報酬や脅しで子供を操ろうとしてもダメ.大人もね.

「自分の意志に反して賛同した者は元の意見を持ち続ける」と,サミュエル・バトラーが書いたのは300年以上前のこと.これまでに社会科学者は,「人は外部から強い圧力を受けずにある行為をすることを選択すると,その行為の責任は自分にあることを認めるようになる」ことを明らかにしている.

ロバート・チャルディーニ著「影響力の武器で紹介されている実験では,小学校の児童を2群に分けて,あるロボットで遊ばないようにと,一方には脅しをかけて(遊んだら物凄く怒るからと伝える),他方には諭して(遊ぶのは悪いことだと伝える),実験者が部屋を出たその場で,子供達がロボットで遊ぶかどうかを観察した.いずれの群でもロボットで遊ぶのはごく少数だった.その6週間後,そのロボットを他のいくつかの魅力ない玩具とともに遊べる機会を与えてみたところ,脅された子供の多くは禁じられたロボットで遊んだものの,諭された子供の多くは禁じられたロボットを手にしなかった

脅したり諭したりした,その場での話ではなく,6週間後というのが興味深い.それだけの時間差があっても,あるおもちゃで遊ぶのは悪いことだと伝えられた子供達は,そのおもちゃを手にしなかった.物凄く怒るからと伝えられた子供達は遊んでしまったにもかかわらず.この違いは何なのか.

「そのときロボットで遊ばなかったことに関して,男の子たちが個人的な責任を感じた」ことが,その理由として挙げられている.「男の子は,ロボットで遊ばなかったのは自分がそうしたくなかったからだと考えたのです.結局,ロボットに結び付いた強力な罰はなかったわけですから,自分の行動をそうとしか説明できなかったのです.だから,ロボットで遊びたくないという方向に自分の信念を変えてしまっていたので,数週間経ってフリードマンがそばにいなくなったときでも,ロボットには見向きもしなかったのです」.

この実験結果から親は重要なことを学べるはずだ.

ちなみに,脅しや罰だけではなく,多額の物質的報酬も責任感を低下させ,内発性を奪い,報酬が得られなくなるとやる気を失うように仕向けてしまう.これも色々な実験が確認されていて,内発が重要であるという説に繋がっている.例えば,エドワード・デシ,リチャード・フラスト著「人を伸ばす力などに詳しい.

ロバート・チャルディーニ著「影響力の武器では,自分の責任で行動したと本人に思わせる効果がいかに強力であるかの事例として,中国共産党の教化プログラムやフラタニティ(主にアメリカの大学・大学院における男子学生社交団体)の加入儀礼を挙げている.

© 2021 Manabu KANO.

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