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現代に生きる「二宮翁夜話」で尊徳の教えを味わう

「二宮翁夜話」とは,二宮尊徳の門人であった福住正兄が,尊徳のそばで暮らした4年間に書き留めた「如是我聞録」をもとに,尊徳の言行をまとめた書である.正編には233話,続編には48話が収められている.二宮尊徳の報徳思想の全容が平易に伝えられた書として知られている.

本書はその「二宮翁夜話」から40話を抜粋し,二宮尊徳の子孫でもある著者が感想や解説を加えた読み物である.

現代に生きる「二宮翁夜話」
中桐万里子,致知出版社,2014

著者は「二宮翁夜話」を次のように評している.

圧倒的にかっこいいと感じているのは,彼の「現実(現場)対応力」です.暮らしの中の一つひとつの小さなできごとに,向き合うやり方や,そこで生み出す工夫のユニークさ.ここに,彼の真骨頂を感じ,ワクワクした憧れや感動をおぼえるのです.「夜話」には,そんな何気ない日常の一コマ一コマが鮮やかに描かれています.

そういう意味でも,元になっている「二宮翁夜話」全体を読み通すのがお勧めだ.数多くの話の中でどれが自分の心に響くかは,そのときの自分の状態に依存する.本書で取り上げられている40話は,著者の心に響いたり,著者が多くの人の心に響くだろうと考えたものに過ぎない.この類いの初心者向けと称する解説書は概ねそういうものだ.また,解説者の解釈が正しいとも限らなければ,唯一でもないので,自分で読み解くという態度も必要だろう.それでも,感想や解説を読んで,なるほどそういう見方もあるのかと,色々と気付きを得ることができる.

二宮金次郎を知らない人はいないだろうが,彼を抜擢したのが小田原藩の大久保忠真だ.一農民にすぎない二宮金次郎を見いだし,農村再建の指導者として引き立てた.しかも,二宮金次郎はすぐに応じたわけではなく,何年も断り続けた.それでも諦めず,二宮金次郎に頭を下げ続けた大久保忠真は偉いと思う.三顧の礼どころではない.二宮金次郎の行為を「報徳」と評したのも大久保忠真である.

さて,「二宮翁夜話」にはこんな話が載っている.

ある日,儒者が大酒をあおって醜態をさらす.それを目にした子弟が教えを受けなくなった.儒者は二宮翁に「私の行いは悪いけれども,教えているのは聖人の言葉です.再び学ぶように諭してください」と頼んだ.それに対して翁は「お前は糞桶に入れた米飯を食べるか?食べないだろ.お前が教えているのが聖人の道だとしても,それを説くのが糞桶の口では誰も聴かない」と答えた.

このように,二宮尊徳の発する言葉はなかなか過激だったりする.オブラートに包まない.それができたのは,本気で人と接していたからなのだろう.

© 2021 Manabu KANO.

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