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スタンフォード式 疲れない体

スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクターである著者が,IAP呼吸法を中核として,疲れない体になる方法や疲れから回復する方法を,運動,食事,睡眠,マインドセットといった様々な観点から解説する.

スタンフォード大学といえば,シリコンバレーのイメージが強いかもしれないが,スポーツでも世界最強であり,NCAA(全米大学体育協会)のランキングで総合1位に君臨し続けている.リオ五輪では,スタンフォード大学だけで,金メダル14個を獲得した.とんでもない大学だ.そこでスポーツ選手のトレーナーも務める著者が,研究成果と経験を踏まえて推奨する方法は説得力がある.

スポーツ選手に限らず,誰にとっても疲労は大きな問題であり,勉強や仕事の効率を大きく下げる原因になる.本書は読む価値がある.お勧めしたい.

山田知生,「スタンフォード式 疲れない体」,サンマーク出版,2018

疲労

そもそも疲労とは何か.著者は次のように述べる.

疲労とは,「筋肉と神経の使いすぎや不具合によって体の機能に障害が発生している」状態のこと.つまり,筋肉だけでなく「神経のコンディションの悪さ」が疲れを引き起こすというのが,最新のスポーツ医学の見解です.

自律神経と中枢神経の状態が悪いとヒトは疲れを感じる.これらの神経の働きを司るのは脳であるため,「疲労の原因は脳にある」と著者は指摘する.さらに,脳疲労を防ぐためには体の歪みを直さなければならないという.

疲れやすい体とは,歪んだ姿勢の体であるというわけだ.

このため,筋肉や関節のケアから,中枢神経の働きを整えるケアへと,アスレチックトレーナーの作業も変化してきたという.

次の4項目のうち1つでも当てはまれば,疲れていると判断できる.要注意だ.

1.脈拍数がいつもと違う
2.睡眠時間が短い.寝る時間や起きる時間が不規則である.
3.腰が痛い.
4.呼吸が浅い.

私の場合,睡眠はしっかり取るように気を付けていて,腰も痛くはないが,いつも呼吸が浅いので,まずい...

IAP呼吸法

スタンフォード大学スポーツ医局が疲労対策の要として取り組んでいるのが,IAP(Intra Abdominal Pressure)呼吸法である.日本語にすると腹腔内圧呼吸法となる.これは,息を吸うときも吐くときも腹腔(お腹の内部)の圧力を高め,お腹周りを固くする呼吸法である.

お腹を膨らませる呼吸といえば,腹式呼吸を思い浮かべる人が多いはずだ.しかし,息を吐くときにお腹を凹ませる腹式呼吸とは異なり,IAP呼吸では,息を吐くときにも腹腔内圧力を高め,お腹を凹ませず,お腹周りを固くする.

こうすることで,体の中心である体幹と脊柱が安定し,姿勢がよくなり,中枢神経と体の連携が滑らかになり,パフォーマンスが向上すると同時に,疲れや怪我も防げるそうだ.

本書「スタンフォード式 疲れない体」には,IAP呼吸法について,図解も含めて詳しく書かれているので,是非,読んでもらいたい.私も早速実践している.といっても思い出したときだけだが...

姿勢

そうは言うものの,呼吸は無意識に行えるので,いつも腹腔内圧(腹圧)を意識しておくのは現実的でない.そこで,IAP呼吸法を実践することで目指す,人間本来の正しい姿勢がどのようなものかをまとめると,以下の3つになるという.

1.猫背でないこと
2.腰が反っていないこと
3.筋肉が収縮していないこと

知らず知らずのうちに,このような姿勢になっていないか気を付けよう.

なお,立っているときも座っているときも,耳と肩のラインを真っ直ぐに(床に対して垂直に)保つのがよい姿勢だとされる.私の場合,立っているときはともかく,座っているときはほぼパソコン作業なので,前屈みになっている.自覚もしているが,この姿勢は非常に悪い.

運動

酷く疲れてもう動きたくないと思うときこそ,軽い運動をして疲労を引き摺らないようにしたい.体を動かすことで,血液の流れが促進され,脳や筋肉に溜まった疲労物質を除去することができる.

本書では,疲労に効く軽い有酸素運動の前後に,「リセット」を行うことで,体の悪い癖を矯正すると共に疲労回復効果を高めることを奨励している.ビフォーリセットとアフターリセットがあり,いずれも簡単な動作なのだが,その詳細については本書を読んでもらいたい.

座りっぱなしも良くない.本書には,理想は30分に1回は立つことだと書いてある.ただ,会議中であるなどして,どうしても立てないときには,「3レッグス」メソッドを勧めている.3つの動作からなるが,すべてが1分程度で終わる.ちなみに,私は自分の執務室で独りで仕事をしていることが多いので,30分ごとに立てるはずだが,実際には,何か(大抵はパソコンとの睨めっこ)に没頭して気付くと3時間経っていたとかになるので,立つこと以前に,本当に姿勢には気を付けないといけない.

その他にも,肩凝り,腰痛,目の疲れ,などに効くメソッドも紹介されているので,是非,参考にしてもらいたい.

回復浴についての解説もあった.温水浴と冷水浴(あるいはシャワー)を交互に繰り返すことで疲労回復に効くそうだ.これを読む限り,高温サウナ10分+水風呂2分を3セットという,私の出張・旅行時のルーティンはダメっぽい.だからと言って,やめるつもりは毛頭ないが.

睡眠

睡眠の役割のひとつは脳と体の疲労回復である.このため,睡眠不足だと疲れが取れず,スポーツ・勉強・仕事のパフォーマンスが劇的に落ちる.本書でも睡眠の重要性が強調されている.

著者が選手に伝えている睡眠4原則は以下のようなものだ.

1.「夜更かし」も「早寝」もしない
2.「週末」に体内時計を狂わせない
3.「ベッドに入る90分前」までに入浴
4.就寝前に「お腹を膨らませる」

最後の「お腹を膨らませる」というのは,もちろんIAP呼吸法のことだ.

とにかく,寝ろ!

食事

睡眠と同様,食事についても,本書に限らず,色々な媒体で注意喚起がなされているので,取り立てて目新しいことが書かれているわけではない.要点をまとめておくと,

1.朝食は食べる.甘い物は避ける.発酵食品はお勧め.
2.一回の食事の量を減らして(腹八分目),回数を増やす.
3.間食にはフルーツやナッツがよい.
4.ビタミン(生野菜)とタンパク質を意識して取る.
5.タンパク質と炭水化物は3:1を目指す.
6.飲酒するなら,同量の水を飲む.

骨ストレッチ

他にも色々と参考になることが書かれており,しかも読みやすいので,本書「スタンフォード式 疲れない体」は多くの人にとって読む価値があると思う.私自身,読んで良かった.

先日,「動ける柔軟な體(からだ)を取り戻した話」に書いたように,私は骨ストレッチ愛好家だ.ほぼ毎月リアルに講習会に参加している他,オンライン動画で学びを深めたりもしている.もちろん,日常的に隙間時間に體のメンテナンスをしている.本書に書かれていることは,その骨ストレッチに通じるところもある.それは当然で,體をいかに良い状態に保つかを突き詰めれば,アプローチは異なっても,同じところへ行き着くのだろう.

本書に書かれていたことのいくつかは,自分の日常生活のルーティンに取り込もう.

山田知生,「スタンフォード式 疲れない体」,サンマーク出版,2018

© 2020 Manabu KANO.

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