マガジンのカバー画像

本の紹介・読書の記録

153
運営しているクリエイター

#教育

「大学は何処へ 未来への設計」で過去を学び未来を考える

この20年ほど改革を迫られ続けて今や疲弊の極みに達している,そして実際に論文数はガタ落ちになっている(それでも「改革が足りないからだ!」とか言えてしまう人達に囲まれている),日本の大学の将来を考える上で,まずは過去を知る必要がある.その観点から,とても勉強になった.というか,これまで知らなさすぎた. 著者である吉見俊哉氏は,現状を以下のように指摘している. では,1930年代以前はどうだったのか. 明治時代以降,旧制高等学校が,高等教育機関として,帝国大学を中心とする旧

ハーバードの次はスタンフォードの講義「20歳のときに知っておきたかったこと」

非常に示唆に富む本だ.本書「20歳のときに知っておきたかったこと」を際立たせているのは,これがスタンフォード大学で起業家精神について教える集中講義の様子を伝えていることだろう.多くの自己啓発本のように,自分のためだけに読むこともできるが,教育に活かすこともできる.冒頭には,次のように書かれている. わたしは,スタンフォード大学の工学部に属するSTVP(スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム)の責任者を10年にわたって務めています.科学者や技術者に起業家精神と

私の講義での漫談も「ハーバードからの贈り物」のように意義があるといいな

私は担当する講義でよく漫談をする.担当科目には直接関係ないが,学生に伝えておきたいと思うことを話す.それは,私が学生のときに聞いてよかったことや聞きたかったことでもある. 「しょせん,人間は,自分が学べることしか学ばない」というメフィストフェレス(ファウストに登場する悪魔)の言葉がその通りだとしても,教師の役割は学生が学べる範囲を広げることだろう. 私が話すのは,「学生/技術者/研究者向けアドバイス一覧(随時更新)」にズラリと並べた記事のようなことだ.例えば,新入生対象の

英語論文を書くために「理科系のための英文作法」を参考にする

英語論文の書き方を伝えようとする本は数多いが,本書の特徴は,数理工学を専門とする著者が,安全な英語を書くための規則を論理的に解説している点にある.そのために,文章の読みやすさに影響を与える要因を,様々な「仮説」として提示しているところが面白い.「○○しなさい」に納得して従える人はそれでいいが,「△△なので○○すべきである」と言われないと納得できない私みたいな輩には本書の書き方はとても良い.まさに,理科系人間による理科系人間のための英語論文執筆指南書と言える. 杉原厚吉,「理

教育とは何なのかを「クリシュナムルティの教育原論」を読んで考える

これまでに読んで衝撃を受けた本はいくつもある.その中に,思わず正座して読んだ本がいくつかある.そのひとつがこの「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」だ.大学の一教育者として,改めて自分の不明を恥じるばかりで,自分なんかが教師を名乗っていてよいのかと憂慮せざるをえない.いや,教師の務めを果たすべく,精進するほかないと思わされる. ジッドウ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti),「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」,コ

吉田松陰が熱い想いを書き留めた遺書「留魂録」

「留魂録」は,吉田松陰が松下村塾の門下生にあてて記した遺書である.両親をはじめ身内への個人的な遺書である「永訣書」とは別に,処刑直前に江戸の獄中で書かれた.書き終えたのは処刑前日の黄昏どき.このとき,松陰,三十歳. 昨日,以下の記事で吉田松陰の言葉を引用したので,今日は留魂録を,というより吉田松陰の生き様を紹介することにした. 吉田松陰,「留魂録」,講談社,2002 本書は,留魂録の全訳と解説,そして吉田松陰の史伝からなる.留魂録に託された松陰の熱い想いに,史伝にまとめ

教師の責務をマックス・ウェーバーが語った「職業としての学問」

1919年,マックス・ウェーバーの晩年の講演をまとめたものであるが,100年後の今なお色褪せていないと感じられる.ただ,正直なところ,読みにくい.文章の読解しにくさに面食らう.どうして,これほどまでに複雑に書くのかと.それでも,学問を職業とする人の心構えや学問の存在意義を明らかにしようとする本書は一読に値する. マックス・ウェーバー,「職業としての学問」,岩波書店,1980 生計を立てるための職業としての学問という観点からは,大学や研究所の人事制度について言及がある.第一

人を動かす - 学生に読んでおいて欲しい本

自己啓発系の書籍で,私が心から素晴らしいと思っているのが,このデール・カーネギー(Dale Carnegie)の「人を動かす」だ.良い人生を送るために,どのように人に接するべきか.人を味方にし,友を増やし,心豊かな人生を送るために,どのように人に接するべきか.この本には,豊富な具体例を添えて,人心掌握の原則が書かれている.学生にも読むように強く勧めている本で,実際,読んだ学生からは圧倒的な支持を得ている.人生を変える一冊になるかもしれない. D・カーネギー,「人を動かす」,

大学新入生に伝えた(い)こと

本日(2020/4/11, Sat),京都大学生協による「京大新入生のためのビジョンナビセミナー」が開催され,そこにパネリスト&講師として参加しました. 今年は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で,入学式はなく,講義もゴールデンウィークまで休講が決まっており,4月なのに吉田キャンパスに学生がほとんどいません.例年のように新しい友達を作る機会がなく,色々と戸惑っている一回生も多いと思います. 講演では,大学について,自分の研究について,など色々と話しました

学生時代に不勉強だった人は,社会に出てからも,かならずむごいエゴイストだ

ある16歳の日記.四月十七日.土曜日. 或る英語の時間に、先生は、リア王の章を静かに訳し終えて、それから、だし抜けに言い出した。がらりと語調も変っていた。噛んで吐き出すような語調とは、あんなのを言うのだろうか。とに角、ぶっきら棒な口調だった。それも、急に、なんの予告もなしに言い出したのだから僕たちは、どきんとした。 「もう、これでおわかれなんだ。はかないものさ。実際、教師と生徒の仲なんて、いい加減なものだ。教師が退職してしまえば、それっきり他人になるんだ。君達が悪いんじゃ