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本の紹介・読書の記録

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#大学

「大学は何処へ 未来への設計」で過去を学び未来を考える

この20年ほど改革を迫られ続けて今や疲弊の極みに達している,そして実際に論文数はガタ落ちになっている(それでも「改革が足りないからだ!」とか言えてしまう人達に囲まれている),日本の大学の将来を考える上で,まずは過去を知る必要がある.その観点から,とても勉強になった.というか,これまで知らなさすぎた. 著者である吉見俊哉氏は,現状を以下のように指摘している. では,1930年代以前はどうだったのか. 明治時代以降,旧制高等学校が,高等教育機関として,帝国大学を中心とする旧

研究のために「音楽の基礎」を身に付ける

研究室の学生が音楽に関連する研究をしたいと直談判に来て,どのような研究がしたいのかを聞いたところ,これまで研究室で取り組んできた研究および学生自身が取り組んできた研究と接点がないわけでもないので,「やってみよう!」ということになった. その研究では「音楽理論」を使うらしいので,指導教員として音楽理論をまったく知らないわけにはいかない.というわけで,音楽のことは何も知らず,楽器を弾くことがないばかりか,音楽を聴くこともあまりない私が勉強することにした.何から手を付けていいかす

ハーバードの次はスタンフォードの講義「20歳のときに知っておきたかったこと」

非常に示唆に富む本だ.本書「20歳のときに知っておきたかったこと」を際立たせているのは,これがスタンフォード大学で起業家精神について教える集中講義の様子を伝えていることだろう.多くの自己啓発本のように,自分のためだけに読むこともできるが,教育に活かすこともできる.冒頭には,次のように書かれている. わたしは,スタンフォード大学の工学部に属するSTVP(スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム)の責任者を10年にわたって務めています.科学者や技術者に起業家精神と

私の講義での漫談も「ハーバードからの贈り物」のように意義があるといいな

私は担当する講義でよく漫談をする.担当科目には直接関係ないが,学生に伝えておきたいと思うことを話す.それは,私が学生のときに聞いてよかったことや聞きたかったことでもある. 「しょせん,人間は,自分が学べることしか学ばない」というメフィストフェレス(ファウストに登場する悪魔)の言葉がその通りだとしても,教師の役割は学生が学べる範囲を広げることだろう. 私が話すのは,「学生/技術者/研究者向けアドバイス一覧(随時更新)」にズラリと並べた記事のようなことだ.例えば,新入生対象の

英語論文を書くために「理科系のための英文作法」を参考にする

英語論文の書き方を伝えようとする本は数多いが,本書の特徴は,数理工学を専門とする著者が,安全な英語を書くための規則を論理的に解説している点にある.そのために,文章の読みやすさに影響を与える要因を,様々な「仮説」として提示しているところが面白い.「○○しなさい」に納得して従える人はそれでいいが,「△△なので○○すべきである」と言われないと納得できない私みたいな輩には本書の書き方はとても良い.まさに,理科系人間による理科系人間のための英語論文執筆指南書と言える. 杉原厚吉,「理

教育とは何なのかを「クリシュナムルティの教育原論」を読んで考える

これまでに読んで衝撃を受けた本はいくつもある.その中に,思わず正座して読んだ本がいくつかある.そのひとつがこの「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」だ.大学の一教育者として,改めて自分の不明を恥じるばかりで,自分なんかが教師を名乗っていてよいのかと憂慮せざるをえない.いや,教師の務めを果たすべく,精進するほかないと思わされる. ジッドウ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti),「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」,コ

教師の責務をマックス・ウェーバーが語った「職業としての学問」

1919年,マックス・ウェーバーの晩年の講演をまとめたものであるが,100年後の今なお色褪せていないと感じられる.ただ,正直なところ,読みにくい.文章の読解しにくさに面食らう.どうして,これほどまでに複雑に書くのかと.それでも,学問を職業とする人の心構えや学問の存在意義を明らかにしようとする本書は一読に値する. マックス・ウェーバー,「職業としての学問」,岩波書店,1980 生計を立てるための職業としての学問という観点からは,大学や研究所の人事制度について言及がある.第一

正確に伝わる文章を書くために「理科系の作文技術」を修得する

以前書いた記事「大学や大学院で身に付けておきたい力」で,文章を上手に正しく書けるようになるために読むことをお勧めする書籍として,本書「理科系の作文技術」を挙げた.ここではその内容を紹介しよう. 「理科系の作文技術」は非常に有名な本で,評価も高い.ただ,2001年に改版されているものの,1981年に書かれただけのことはあって,内容がいかにも古いと感じる部分もある.例えば,下書きは鉛筆で,清書はペンかボールペンで,など.それでも,文章の書き方の原則がそう簡単に変わるはずはなく,

経営者の条件 - 学生に読んでおいて欲しい本

原題は”The Effective Executive”であり,ドラッカーの著作であることから,これが「経営者の条件」と邦訳されたのだろう.だが,この邦題は誤解を招く恐れがある.というのも,本書の対象は決して「経営者」ではないからだ.組織において意志決定を行う知識労働者すべてが対象である. P.F.ドラッカー,「経営者の条件」,ダイヤモンド社,2006 今日の組織では,自らの知識あるいは地位のゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は,すべてエグゼクティブ

話し方入門 - 学生に読んでおいて欲しい本

デール・カーネギーの名著「話し方入門」には,人前で上手に話すための秘訣が書かれている.もちろん,単なるハウツウではない.人に伝えたいと切望するものがあること,周到に準備をすること,練習に練習を重ねて自信を持つこと,始め方と終わり方に注意すること,わかりやすく話すこと,そして,美しい言葉を身に付けることなどが挙げられている.人前で話すことの重要性を認識し,上手に話せるようになりたいと願う人にはきっと役立つはずだ. 先に,お勧めの書籍として,デール・カーネギー(Dale Car

人を動かす - 学生に読んでおいて欲しい本

自己啓発系の書籍で,私が心から素晴らしいと思っているのが,このデール・カーネギー(Dale Carnegie)の「人を動かす」だ.良い人生を送るために,どのように人に接するべきか.人を味方にし,友を増やし,心豊かな人生を送るために,どのように人に接するべきか.この本には,豊富な具体例を添えて,人心掌握の原則が書かれている.学生にも読むように強く勧めている本で,実際,読んだ学生からは圧倒的な支持を得ている.人生を変える一冊になるかもしれない. D・カーネギー,「人を動かす」,

博士課程進学という決断:青年の大成 - 学生に読んでおいて欲しい本

本の話をする前に,博士課程進学という決断について自分自身を振り返って,まとめておきます. 決断 私自身の場合,もう20年近くも前のことになりますが(注:この文章を書いたのは2012年),修士課程在学中に博士後期課程に進学する決断を下したのは,「この研究室で,このスタッフの下で,あと3年間頑張って勉強や研究をして実力をつけたら,後は自分で何とかなる」と判断したからです.もちろん,友人も含めて,ほとんどの学生は誰でも名前を知っているような大企業に就職していくわけで,給料が貰える

大学や大学院で身に付けておきたい力

毎年,研究室に新しく入ってきてくれた学生に,あるいは研究室配属を前にして研究室を見学しにきてくれた学生に,研究室で取り組んでいる研究テーマに加えて,必ず伝えていることがあります.それは,指導教員として学生に何を求めているかです. 大学や大学院は教育機関ですから,研究室での研究を通して身に付けて欲しいものがあります.私が,学生に大学や大学院(修士課程)で身に付けて欲しいと考えているのは,以下の4つの力です. 必要な知識を自分で修得できる研究室に配属されて研究を始めたばかりの

大学新入生に伝えた(い)こと

本日(2020/4/11, Sat),京都大学生協による「京大新入生のためのビジョンナビセミナー」が開催され,そこにパネリスト&講師として参加しました. 今年は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で,入学式はなく,講義もゴールデンウィークまで休講が決まっており,4月なのに吉田キャンパスに学生がほとんどいません.例年のように新しい友達を作る機会がなく,色々と戸惑っている一回生も多いと思います. 講演では,大学について,自分の研究について,など色々と話しました