毛髪の新たな再生医療技術

本ブログの新シリーズとして、最近気になる話題をピックアップします。
ニュースや研究論文などジャンルもさまざまになると思います。研究論文については、質を担保するために査読ありの論文に限定します。

今回は、2020年にJAAD(アメリカ皮膚科学会誌)に掲載された文献です。

毛髪再生医療による男女の壮年性脱毛症の新たな治療法を開発
Tsuboi R, Niiyama S, Irisawa R, Harada K, Nakazawa Y, Kishimoto J. “Autologous cell-based therapy for male and female pattern hair loss using dermal sheath cup cells: A randomized placebo-controlled double-blinded dose-finding clinical study.” J Am Acad Dermatol. 2020 Mar 5. pii: S0190-9622(20)30272-3. doi: 10.1016/j.jaad.2020.02.033. [Epub ahead of print]

【概要】
東京医科大学皮膚科学分野研究チーム(坪井良治主任教授)と東邦大学医療センター大橋病院皮膚科(新山史朗准教授)および資生堂再生医療開発室とが共同で行った医師主導臨床研究。自家毛髪培養細胞を用いた細胞治療法に安全性と改善効果を認め、男女の壮年性脱毛症の新しい治療法になりうることが示された。

【背景】
現在、脱毛症の中でも発症頻度の高い男女の壮年性脱毛症は重篤な疾患ではないものの、外見に重大な影響を及ぼすことから、QOL(Quality of Life=生活の質)向上の観点で治療法開発が期待されている。壮年性脱毛症の治療法として、日本国内ではいくつかの薬剤等が用いられているが、それらの効果は男女を問わず十分ではない。近年、自家あるいは同種細胞を用いた細胞治療が臨床応用されている。

【目的】
毛球部毛根鞘(DSC)細胞加工物を用いた自家培養細胞の頭皮薄毛部への注入施術の安全性と有効性を検討した。

【方法】
DSC細胞を作成するために、後頭部の毛包から採取したDSCを培養した。50人の男性と15人の女性(33-64歳)の男女の壮年性脱毛症患者は異なる量(7.5 × 10^6個あるいは、1.5 × 10^6個、3.0 × 10^5個)のDSC細胞またはプラセボ懸濁液を脱毛部頭皮の4つの異なる領域に1回注射し、毛髪密度や毛髪径を3か月、6か月 、9か月、12か月後の状態を計測した。

【結果】
DSC細胞を注射した部位の総毛髪密度と積算毛髪径は、6か月後および9か月後において、3.0 × 10^5個の DSC 細胞を注射した部位で、プラセボと比較して有意に増加していた。有効性に性差はなかった。また、重大な有害事象も認められなかった。

【限界】
より少ない細胞数は試験されていないことと、有効性は9か月までで一時的であること。

【結論】
自家DSC細胞を用いた細胞治療は男女の壮年性脱毛症に対する新たな治療として有用である可能性がある。

【コメント】
正常に毛髪が生えている頭皮部位の毛包の細胞を取り出して培養し、毛包の種を作る。そしてその種を頭部に移植するような、毛髪再生についての関心が高まっています。本論文は、再生医療による薄毛治療法が期待されている中で、重要な研究成果だと思われます。

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