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頭痛薬の飲み過ぎが頭痛の原因になる話

重度の頭痛持ち患者の中には毎日のように鎮痛薬やトリプタンを内服している人がいます。
しかし、厄介なことに頭痛薬の飲み過ぎはそれ自体が慢性頭痛の大きな原因の一つと言われており、頭痛診療のなかで最も強敵な頭痛の一つです。
医学用語では「薬剤の使用過多による頭痛」といいます。


薬剤の使用過多による頭痛について

頭痛薬の使いすぎって具体的にどれくらい?

飲みすぎの定義は厳密には薬によって少しずつ変わります。
概ね3日に1回以上(1ヶ月10回以上)の頻度で鎮痛薬を飲む人は、
使用過多に該当する可能性が高い
です。
特に使用過多による頭痛を引き起こしていると言われるのが、
OTC医薬品と言われるドラッグストアで買える頭痛薬です。
バファリンやイブなんかですね。
もちろん、月に1,2回使ったからってすぐに害を及ぼすものではありませんのでご心配なく。

なぜ頭痛薬を飲みすぎると頭痛を起こす?

本来頭痛を抑えるはずの頭痛薬がなぜ頭痛の原因になるのかまだ完全には解明されていません。
しかし、その原因として「中枢性感作」という機序が考えられています。
「Wind up現象」や「疼痛抑制機構の異常」など様々な病態が関わるのですが、難しい内容は省いてざっくり説明します。

「痛み」というのは私たちの身体の中で起こっている異常や外部の危険を脳に伝える非常に大事なシグナルです。
そんな私たちが痛みを感じた時に、それを抑制するような薬を長期間飲み続けるとどうなるでしょうか。
私たちの脳は本来は必要な痛みが経験できないことに「おかしいぞ?」と考えるようになります。
私たちがテレビの音声が聞き取りづらい時にボリュームを上げるように、脳も痛みの刺激が伝わりづらいと痛みのボリュームをあげ、より痛みが伝わりやすいようにするのです。
普通の人であれば1の痛み刺激が1脳に伝わるところ、鎮痛剤を飲み続けた人は1の痛み刺激が10にボリュームアップして脳に伝わるようになってしまします。
これを中枢性感作と言います。

慢性頭痛の患者さんで、皮膚を触っただけで過剰に痛がるアロディニアと言う症状を合併する人がいますが、これも中枢性感作により痛み刺激が増幅された結果と考えられます。

悪循環を引き起こす中枢性感作

鎮痛剤を飲みと、その場では痛みは和らぎます。
しかし、飲みすぎると中枢性感作により痛みが増幅されて伝わるようになり今まで以上に痛みに悩まされることになります。
その結果、以前より痛み止めの量が増えてしまう悪循環に陥ります。
これが薬剤の使用過多による頭痛が強敵で治療が難しいと言う理由です。


薬剤の使用過多による頭痛の治療

以上を踏まえ、薬剤使用過多による頭痛の治療は「感度の調整がおかしくなってしまった脳をゆっくり元に戻してあげること」が必要になります。
つまり、理想的には今飲んでいる鎮痛薬を飲まなくすることが大事なのですが、もともと頭痛で苦しんでいる患者さんに痛み止めを全く飲むなと言うのは現実的に難しいことが多いです。
よって、様々なアプローチによりできるだけ飲む頻度を少しずつ減らしていく必要があります。
そのための方法をいくつか書いていきます。

1. 頭痛を増悪させる生活習慣を見直す。

慢性頭痛の患者さんには睡眠障害を併発している方が多いです。
他にもアルコール多飲や暴飲暴食による肥満、睡眠時無呼吸など
頭痛を慢性化させる生活習慣や併存疾患を抱えている場合にはそちらの改善をすることで頭痛の頻度が軽減することがあります。
一番は規則正しく十分な睡眠時間の確保が大事と考えますが、自力での確保が難しい人はそこも精神科の医師に相談するのが良いです。

2. 予防薬を開始・変更する。

鎮痛剤の頻度が増えてきた患者さんには予防薬の内服をお勧めします。
最近では CGRP抗体関連薬など強力な予防薬も出てきています。

3. 漢方薬や鍼灸などを試してみる。

漢方薬の中には、急性の頭痛に有効な薬もあります。
効果はトリプタンなんかに比べるとマイルドですが、軽度の頭痛には十分に効くことも期待されます。
漢方の使用過多は基本的に頭痛を招きにくいので、頭痛発作の中で、漢方で対処できる日があるのであれば鎮痛剤の代替として漢方を試すのは有効と考えています。
頭痛に対する漢方での治療はまた別の機会にまとめます。
同様に鍼灸などの非薬物療法も試してもいいかもしれません。

4. 頭痛ダイアリーをつける。

これは患者さんに頭痛の起こった日や飲んだ頭痛薬などの情報を記載してもらう日記です。慢性頭痛の患者さんには記載をお勧めしています。
これにより、予防薬の治療効果が見えやすいだけでなく自分がどのようなタイミングで頭痛薬を飲んでいるのか省みることができます。
頭痛薬を頻用する患者さんの中には、過去の頭痛の経験からなんとなくの不安感だけで頭痛薬を内服していることもあります。
頭痛ダイアリーの活用で本来は不要であった内服に気付き、頭痛薬の減量につながります。
体重を毎日測った方が、ダイエットが成功しやすいのと似ていますね。

5. 精神科を受診する。

 先ほど睡眠障害の話もしましたが、薬剤の使用過多による頭痛の患者さんは抑うつなど精神疾患が背景にある場合が多く、そうであるならば一般的な頭痛予防薬では効果が出ないです。
頭痛の主治医と相談した上で、精神科的アプローチも検討したらいいかもしれません。

まとめ

鎮痛薬はいざという時の頼もしい味方ですが、決して常用を目的に作られた薬ではありません。
頭痛薬は正しい頻度で使わないとかえって体に毒になってしまうということをしっかり分かった上で、主治医と相談しながら使用するようにしてください。

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