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01 地域食支援の「地域」とは

 食支援ではなく、地域食支援という言葉を使い始めた理由について触れておきたい。私は1997年から訪問歯科診療を始めた。本当に最初は入れ歯の修理、調整や新たに製作をすることぐらいしか考えずに始めた。
 日本の摂食嚥下障害に対するリハビリが本格的に始まったのが1990年代中盤。そして、1991年に大学を卒業した私たち世代は学生教育としてそのようなものは学んでいなかった。

 恥ずかしいエピソードがある。ある患者さんに新しい入れ歯を装着し、御本人も、私自身も納得のできる完成度だった。そして帰り際、患者さんの家族に、
「主人は食べるときすごくむせてしまいうまく食べられないんです」
と言われた。私は、
「それは歯科ではなんともできませんね」
と言って帰宅したことがある。今考えても赤面の思いである。まさに歯科の仕事だった。

 その後、摂食嚥下機能とその障害についても独学で学び、それなりに食べられるようになる方も出てきた。そんな患者の中に、老々介護で妻が夫を介護している家庭があった。患者の嚥下機能が少し向上し、一切経口摂取できなかったものが、ゼリー等を嚥下できるようになっていた。私が行くときはゼリー嚥下ができるのだが、妻は怖くて介助できないとのことだった。私が2週間に一度訪問してゼリーを食べることが患者の生きる喜びだという。本来毎日食べられるはずなのに著者の訪問時だけゼリーを食べる。これは生活ではないと感じた。このようなケースを通して、歯科だけでできることの限界、そして他職種と協働してサポートしていかなければならないということを知った。これこそが食支援であった。

 食支援歴25年。その中で考え続けてきたことがある。他職種連携によってうまくいくケースもあったし、主治医の圧力で担当を外されたこともある。色んな経験の中で、地域の力をつけてきたからこそ結果が出せるようになってきたのだと。私の主戦場は東京都新宿区だが、例えば広島県広島市に移動して同様な結果を出せるだろうか。私を知ってもらうところから始まり、信頼できる他職種のネットワークを作るには相当な時間がかかるだろう。食支援は地域でやるものであると確信している。そこで地域食支援と語るようにしている。

 日本も広い。色んな地域があることは知っている。それらを私1人で変えていくことは不可能だ。一地域を変えることも難しいだろう。だから、全国な優秀な人材とネットワークを構築したいと思っている。



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