Mr. Noone Special

20代はあっという間だとか、つらいのは今のうちだけだよとかいう言葉が嫌いだ。だって言葉の奥に後悔の念が見え隠れするから。

時に信じられないスピードで生活は続く。振り返って初めて時間を意識するのは愚かな行為に思えて仕方がない。だから思考のバランスをトリップメータからスピードメータに付け替えている。これは決して意識を高く持っているわけではなくて、自責の念に駆られて己の矮小さを実感するのが嫌だという弱さからくるものだ。弱い僕にとっての自己防衛だ。

全く尊敬もできないような人間にそう言われたとき、腹が立ってしまう。お前のような人生だけは歩みたくないと反抗してしまう。だから極力言いたくないし聞きたくもない。浅はかさが一番にじみ出る言葉だと思う。

もう一つ嫌いな言葉がある。

「春は出会いと別れの季節だからさ~」っていう決まり文句。

人と別れることなんてどう考えても悲しいことなのに、まるで決まり決まった仕方ないことのように片づけないでほしい。春だから仕方ないなんてことはない。人が出合い別れるその狭間には劇的なことがあったはずだ。事務的で何度も使いまわされた文言で出会いと別れを語るな。春を混ぜて感傷に浸るな。表現をこねくり回して、過大に意訳してしまえ。頭を使うことを諦めるな。



今月、一人の友達と別れる。

同期入社で、同じ社員寮に配属されたのが始まりだった。端的に言えば会社の同期なのだが、たぶん同僚というよりは友達という表現のほうが近い気がする。仕事の相談よりもどこに遊びに行くかとか、どこで飲むかとか、あの服が欲しいとか、あのアイドルがかわいいとかそんな話ばかりしていた。

どちらかというと遊び人で憎めないやつという印象の彼と、いつでも斜に構えて内向的な僕とでは全くタイプが違った。流行に敏感で上昇志向な彼の傍らで、70年代のマイナーなロックバンドや頭のおかしい近代文学作家の話をぼそぼそとしゃべる僕。よくもまあ友好的にやれていたと思う。おそらく彼が何となく折り合いをつけて僕の話を受け流してくれていたのだとは思うけど、違うからこそ上手く付き合えたのだろう。

3年務めた会社を辞めて、地元で新しい生活を始めるという。そんな彼にかける言葉はあるだろうか。思い出を振り返るのは恥ずかしすぎる。次の会社でもうまくやれよとか、お前なら大丈夫だとかも性に合わない。僕からそれを言うのは上から過ぎる。そんなもの思っているだけで十分だ。

何を言っても合わない気がするし、僕はそう言えるほどの人間じゃない。そう思ってしまうのはただの同期じゃなくて、近しい存在だっということなのだろう。何を言うにも遠慮いらないからこそ、こういう時に言う言葉が見つからない。

やっぱりこう言うしかないだろうか。それは適当なわけではないってたぶんわかってくれると思うから。

やっぱり春は出会いと別れの季節だから寂しいな。

3年はあっという間だったよね。短すぎるよ。




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