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喪主の挨拶を襲った悲劇

 母の葬儀の時に、困ったこととして喪主の挨拶というものがあった。
 母の葬儀は身内だけの家族葬にしたのだが、形式上は喪主のあいさつというものが必要だ。
 父は20年ほど前に他界し、一人っ子なので兄弟もいない。
 自然と喪主は僕ということになる。
 父の時も喪主であったが、はるか昔のことなので忘れてしまった。

 なので、葬儀のスタッフにお願いして、喪主挨拶の見本(つまりはカンペ)などもいただいた。
 短くはあるが、的確でその内容を言えば、まず間違いないだろう。

 とは言え、故人は二人暮らしであった僕の母。
 葬儀に参列しているのは、母の兄弟やその娘たちなど。
 僕が常日頃お世話になっている人たちだし、僕のことをよく知っている人たちだ。
 余程のことがない限り間違いはないはずだ。

 カンペを見る。
 「本日は、母の葬儀にご参列いただきましてまことにありがとうございます」
 これは分かる。
 カンペを再度見る。
「母、亡き後、残された私たち家族も力をあわせ、一丸となり、○○家を守っていく所存で・・」

 ちょっと待て。
 母と僕は二人暮らし。 
 残された家族は僕一人。
 家にも僕だけだ。
 私たちではない。
 圧倒的な私、私、私。
 一丸となりってダンゴムシみたいに丸まればよいのか!?
 戸惑った僕は、ゴニョゴニョと何を言ったらいいか分からないように喪主挨拶を終えるのであった。
 

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