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天使たちの歌

 私が、子供の頃の話だ。
 事件は、ある都市伝説から始まった。かなり有名な話なので、覚えている方もいるだろう。

 1986年に放映されていた松坂慶子と外人の女の子が鬼のカッコで出演していたクリネックスのCMにのろいがかかり、まず外人の女の子が死亡。
 続いてカメラマンが謎の病気で死亡。松坂は発病。CMのBGMで流れていたウィーン少年合唱団ふうの外国の子供の歌声が原因で、その曲はドイツ語で『死ね、死ね、みんな一人ずつ呪い殺してやる』という意味の呪いの歌だった

 クリネックスのCMの呪いという有名な都市伝説だ。

 当時は、インターネットなどがまだ広まっておらず、東京都内で広まった噂は、地方の新潟にあっては、若干ゆがめられた形で伝えられた。

 私が当時に聞いた話では、もっと単純化されており、「松坂慶子と鬼の女の子が出ていたCMには呪いがかかっている。鬼の女の子は交通事故で死亡。松坂慶子は事故で重体。原因はバックで流れていたBGMで、これは、悪魔を呼ぶ呪文らしい。そして、その音楽を聴いた人にも子供や松坂慶子と同じ呪いがふりかかる」というものだった。

 そう、同じ呪いがふりかかるとされていたのだ。

「わー、どうしよう?何度も聴いちゃったよ、オレ!」という形で、私の周りではかなりのパニックになった。
 そんな時に部活動や、塾などで帰りが遅くなり、夜道を歩くことになったら、それは恐怖以外の何ものでもない。
 想像は大きく膨らむものだから、すぐそこの電信柱の後ろに悪魔が大鎌を持って隠れているような、そんな気分と戦いながら家路を急いだものだ。
 冷静に考えるとCMの歌を聴いただけで呪いが降りかかるならば、日本中に悪魔が出没していそうなものだが、子供だったので、その辺の判断力は欠如していたのだろう。

 さて、こんなパニックになった子供たちに、ある日、救いの手がさしのべられた。
 悪魔の歌の呪いをうち消す天使の歌があるというのだ。
 これで、夜道をおびえずに帰らなくてもいいのだ。
 吸血鬼に十字架、口さけ女に”ポマード”のようなものだ。
 その天使の歌とは! 

 ♪シャバダバ、シャバダバー
  シャバダバ、シャバダバー 

 ・・・誰だ?
  11PMの曲を”天使の歌”と教えたのは?

 おそらく、上級生の悪ガキのイタズラだったのだろう。
 かくして、11PMなど見たことも無い、純情でまじめな少年・少女たちの声が夜の静寂に響くこととなったのであった。

※11PM・・・当時、深夜に放送されていたテレビ番組。当時としては、かなり、エロ企画が多かったため、思春期の少年たちは親の目を盗んで見ることに必死であった。

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