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《ひふの貯金》という言葉で,デュピクセントの説明がしやすくなった話

アトピー性皮膚炎に対する,デュピクセントの本質とは何か。


はじめに

 2023年9月末から,デュピクセントが6か月の赤ちゃんから投与できるようになり,アトピーの子をもつ親へ説明する機会が増えました.

 今まで,15歳以上の方に説明する際には,どうしても費用について説明してほしいという方が多く,高額医療費制度の説明に時間を割くことが多かったのに対し,

 こどもの場合は,こども医療により実質医療費がかからないため,費用ではないポイントについて聞かれるようになりましたが,副作用については大人と一緒で,結膜炎,注射部位反応,頭痛といったところで,大人と同様,さほど注意してお話することがありません.

 では,どのようなことが気になるかというと,

 「この治療が,この子に対してどのような貢献をもたらすか」ということ.

 つまり,本質的な質問です.

 具体的にはまず,十中八九,この治療はこの子のアトピーを根治させるのか,と聞かれます.しかし,もちろん,答えはNO.自分が生きているうちにそれができる方法が見つかったのなら,それはそれは大興奮です...

 半分予想どおりの返答に対し,落胆した顔をみせる親に対して,こう続けます.

積み重なった皮膚炎は「ひふの借金」

「ひふの借金」は限界がない

 アトピーの肌で生まれた子は,皮脂,よだれ,汗,衣類の刺激,その後食べ物など様々なものに対して,皮膚炎が生じてきます.

 これを,「ひふの借金」としましょう.

 毎日のスキンケアや治療によって,この借金を毎日返済していけるのであれば,ひふの借金が積み重なることはなく,きれいな状態を保つことができますが,アトピー性皮膚炎(=防御力がよわい肌)の子の場合は,毎日の返済で返すことができない借金が,少しずつ積み重なって膨れ上がっていきます.

 そこに,アレルゲン物質の感作が加わると,まさに利息が加速度的に,雪だるま式に増えていく高金利の借金のように,首が回らない状態,にっちもさっちもいかない状態へと引きずり込まれてしまうわけです.

 このように,ひふの借金が膨れ上がった状態,皮膚炎が積み重なって変化してしまっている状態は,タイプによって苔癬化(たいせんか)と言ったり,痒疹化(ようしんか)と言ったりして,

 今までの治療(ステロイド外用,タクロリムス外用,抗アレルギー薬)では,利息ばっかり返済するのみで,どれだけがんばってもひふの借金が減っている感覚がないため,とうとう本人も親も,塗ってもどうせまた悪くなるっしょと,あきらめてしまう時代でした.

 アトピーで皮膚炎が全身に広がっている人は,ひふの借金が膨れ上がっている状態と考えられます.

デュピクセントの効果とその限界

デュピクセントという画期的な治療

 さてそこに,デュピクセントという新しい治療が始まり,利息ばかりか,どんどんと元金まですごい勢いで返済していくことができ,さらに,すべてを返済する(皮膚炎が治まる)に留まらず,

 弱くなった皮膚を少しずつ回復させ,もちもちとした感触に変えていき,リモデリング(再構築)という現象を与えてくれるようになります.

 皮膚の構築が回復することで例えば毛が生えてきますし,機能が回復して,汗をしっかりかけるようになってきます.そうなってくると免疫機能も改善し,アレルゲンの感作も減ってくるでしょう.現在世界中で,デュピクセントによる皮膚の構造的な回復と,機能的な回復がどんどん証明されてきています.

 さて,そう言うと,

「え?それって,アトピー性皮膚炎が根治しているってことじゃないの?完全に構造と機能が回復したら,根治じゃないの?」と,そんな声がいろんな角度からとんできそうですね.

 ごめんなさい,そんなにアトピー性皮膚炎は甘くないです.

 デュピクセントを投与し始めてすぐ,かゆみが治まってきます.かいても気持ちよくなくなってきます.かきこわすことが少なくなり,夜中にかいていることや,人前でかくことが少なくなり,周りの人にそう,指摘されるようになります.

 そして,今まで不安だった毎日が,安心感に塗り替えられていき,今までできなかったことに挑戦しようとか,前向きになる人も多くいます.これが,デュピクセントのアトピーの人に対する一番の効果だと思っています.

 半年,1年,2年とこれを続けます.しかしその後,中止するとどうなるか.

 もちろんそれぞれのアトピーの重症度によりますから,平均的なお話ですが,半年続けた人は,約3か月はそのままの状態をキープ,2年続けた人は1年以上そのままの状態をキープできる場合が多いです.でも,その後は徐々に,かゆみも気持ちよさも,不安感もちゃんと蘇ってきます.

「あぁ治ったと思ったのに,やっぱり自分の肌は普通の肌と違うんだ」と,現実を突きつけられる思いになります.

 デュピクセントが画期的な革新的な治療だとはいえ,それでも結局,「対症療法」の域を超えることはない.

 これが現実です.

新しい治療が与えてくれる「ひふの貯金」

ひふの貯金が得意なのは,デュピクセントとアドトラーザ

 しかしながら,デュピクセントの強く優しい力で,膨れ上がった借金がみるみる返済されて,むしろ貯金ができてくると,もしその後中止せざるを得なくなったとしても,そこまでに貯めた「ひふの貯金」は確かにそこに残ります.(ひふの貯金には上限がありますが)

 中止後,もちろんそこから貯金は使われ減っていきますが,急激にまた借金まみれの生活に戻るわけではなく,ゆっくりゆっくり進んでいきます.

 確かに時間とともに,全く元通りの借金まみれの状態に戻ってしまう人もいるかもしれません.

 しかし,デュピクセントで回復していく間に,あきらめていたスキンケアを見直すことができ,これは自分に合う,これはやっぱり合わない,こういう生活をすると悪化する,規則正しく生活するとやっぱり調子がよい,などと自分の肌を見つめなおすことができる人もいます.

 この治療をすれば,最悪の借金まみれの状態からいつでも回復することができると,経済的な理由で中止しても,その後も希望を胸に持ち続けられる人もいます.

 こどもの成長の中で,一時的だとはいえ,大切な時期に皮膚炎が治まっているかどうかで,人生が変わることだってあるかもしれない.

 そして,暗闇のトンネルからしつこいかゆみのない世界へ行くことができたという経験は,確かにその人,その子に残ります.

デュピクセント治療の意味は「ひふの貯金」を作ることと,その経験を与えること

 今日,あなたの子はアトピー性皮膚炎で生まれてきてしまいました.このデュピクセントは優しく強く,あなたの子をしつこいかゆみのない世界に連れて行ってくれる可能性が高いです.でも,もちろん根治ではありません.

 その効果を「対症療法」として一時的なまやかしと捉えるのか,それともその子にとって意味のあるものと捉えるのか.

「さて,あなたはどう考えますか?」

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