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ヘルスケア×BigTech×AI最新戦略まとめ


時価総額一位となったNVIDIAの存在感

先日NVIDIA社が時価総額世界一になりましたが、実はヘルスケア分野でも存在感を発揮していることをご存じでしたか?これまではGoogle、Amazon、Appleなどの取り組みがBig Techとヘルスケアの文脈で注目されがちでしたが、AIやビッグデータの重要性が増す時代において、NVIDIAの取り組みも見逃せません。

出展:CB Insights Big Tech in Healthcare June 2024

左:協業数で数えると、NVIDIAが圧倒的です。Google、Amazon、Microsoftが続きます。特にNVIDIAは医療データ関連(主に緑の領域)での協業数が圧倒的です。後述しますが、特にヘルスケアに特化したプラットフォームNVIDIA Claraの存在が大きいでしょう。

右:各領域における各社のシェアを見ると、NVIDIAの割合がほぼ50%前後ですが、例えばAmazonは特にtoCの診療やオンライン薬局で存在感を示し、Googleは創薬領域での活動が目立ちます。各社の特徴が見えてきます。

本記事では各社の戦略概要から具体例まで簡単にまとめましたので、ぜひお楽しみください。

Big Tech各社のヘルスケア戦略概要

NVIDIA

NVIDIAの強みはハードウェアによる大量データ解析能力とAIです。自社のヘルスケア特化コンピューティングプラットフォームNVIDIA Claraや創薬特化プラットフォームBioNeMo(後述)を活用し、特にAI創薬の領域、手術用AI、スマートホスピタルに注力しています。

NVIDIA Claraとは?
医療およびライフサイエンス向けに設計されたAIと高性能コンピューティングプラットフォームで、医療画像解析からゲノム解析まで、様々な医療アプリケーションをサポートしています。オープンな開発環境を提供することで、研究者や開発者が独自のAIソリューションを容易に構築できるよう支援しています。

BioNeMoとは?
バイオテクノロジー分野に特化した生成AI(Generative AI)プラットフォームです。BioNeMoは、タンパク質や分子の構造を生成・解析するための高度なAIモデルを提供し、新薬の発見や開発プロセスを大幅に加速させます。このプラットフォームは、NVIDIAの強力なGPU技術を活用し、大規模なバイオインフォマティクスデータを迅速に処理します。

特に注力している領域と具体例は以下の通りです:

  • AI創薬:NVIDIA ClaraやBioNeMoを活用して、複雑な分子構造の解析や新薬候補の生成を行うAIモデルのトレーニングを行っています。特に注目したいのは日本での活動です。三井物産と協業し、日本の製薬業界向けのスーパーコンピューターTokyo-1を提供し始めたことを2023年に発表しています。分子動力学シミュレーション、LLMトレーニング、新規分子構造生成AIなどを活用してAI創薬を支援します。

  • 手術用AI:NVIDIAの技術を活用することでリアルタイムの手術映像の解析が可能となりました。Activ Surgical社をに2021年から投資し支援していたり、今年の3月にはJohnson & Johnsonとの協業を発表するなど、リアルタイムに手術を支援する技術の開発を推進しています。

  • スマートホスピタル:今年の3月にヘルスケア特化LLMとして話題のHippocratic AI社と協業を発表し、人間の医療従事者のように共感力が高いモデル開発を試みています。また、スマートホスピタル技術の開発に注力するArtisight社とも協業しており、医療スタッフ・患者・医療機器などの位置情報をリアルタイムで追跡するシステムや、院内オペレーション改善ソフトウェアなどを開発しています。

Amazon

既存の顧客チャネルを活かして、注力領域はプライマリケアから処方薬の配送まで、D2Cのサービスが中心です。ほかのBig Techとは異なり、直接患者にケアを届けるという方向でサービスを拡大していくでしょう。

特に注力している領域と具体例は以下の通りです:

  • D2C診療サービス

    • プライマリケア:Amazonは、消費者向けにAmazon Clinicを通じてオンラインで医療相談を提供しています。また、One Medicalの買収により、メンバーシップベースのプライマリケアサービスを強化しています​​。

    • 領域特化ケア:Omada HealthやMavenといった専門的なヘルスケアプラットフォームと連携し、特定の健康管理ニーズに対応しています。これにより、消費者はリモートでの糖尿病管理や女性の健康管理サービスを受けることができます​​。

  • オンライン薬局

    • PillPack:2018年にPillPackを買収し、オンライン薬局市場への本格的な進出を図りました。PillPackは、個別包装された処方薬を消費者に直接配送するサービスを提供しており、これにより薬の管理が容易になりました。買収後、AmazonはこのサービスをAmazon Pharmacyとして展開し、処方薬のオンライン販売を強化しています。

    • ドローン薬剤配送:Amazon Prime Airと呼ばれるドローンを活用した処方薬配送サービスの実現に向けた取り組みを進めています。特に緊急性が高い場合や交通が困難な地域での医薬品配送を可能にし、患者の利便性とケアの質を向上させます。

★クラウド領域においてはGoogleに勝てず:
AmazonはAWSを通じてヘルスケアデータのクラウド管理サービスを提供していますが、Google Cloudのデータ解析能力には依然として遅れを取っています。特にヘルスケア分野では、Google Cloudが提供する高度なAI解析機能が医療機関に支持されています​​。

★今後の展望として、ClosedLoop.aiやSquidIIQと連携してプライマリーケアのデータ分析参入を検討しているとのこと

Google

Googleの強みはクラウドを活用したデータ管理です。Amazonの項目でも述べましたが、そのほかにもAIの活動が活発で、4月にはArmベースのAIチップAxionを発表しました。このチップは、高度なデータ処理能力を持ち、特にAIモデルのトレーニングと推論を効率的に行います。ヘルスケア領域では医療データの解析や診断支援、さらには生成AIによる新薬開発などに応用が期待されています。

特に注力している領域と具体例は以下の通りです:

  • クラウドの活用

    • 電子カルテ(EHR)大手のEpic:共同でクラウドベースのEHRシステムを開発しています。これにより、医療機関はデータの管理とアクセスを効率化し、患者ケアの質を向上させることが可能になります​

  • AIの活用

    • Path AIとの病理診断AI開発

    • Bayerとの放射線AI活用

  • GV(GoogleのVC)を通じたバイオテック投資

    • 注目の投資先には、遺伝子治療を手がけるDelphia Therapeuticsや、革新的な癌治療を開発するBridgeBioなどがあります

出展:CB Insights Big Tech in Healthcare June 2024

Microsoft

マイクソフトはAIを活用し医療機関・製薬企業向けのインフラ作りに注力しています。

特に注力している領域と具体例は以下の通りです:

  • 医療機関向けAI:ここ1年で、AIを使った臨床文書化ソリューションを提供するNuanceの買収、デジタル病理プラットフォームPaige・医療画像AIプラットフォームFlywheelへの投資を発表しています。買収と投資を組み合わせて、医療機関向けに活用されるAIサービスのパッケージ化戦略が読み取れます。

  • 製薬企業向けAI:Azureを活用して、大規模なバイオインフォマティクスデータの解析やAI創薬を支援しています。

おわり

Big Tech各社はそれぞれの技術力と資本力を活かし、ヘルスケア分野での革新を続けています。これからもAI、クラウド、データ解析技術を駆使し、医療現場の効率化や患者体験の向上に寄与するでしょう。ヘルスケア・バイオテック×AIで活動するにあたっては、引き続きBig Techの動きから目が離せませんし、この領域のスタートアップとしては協業やM&Aを視野に連携することも十分に選択肢として考えられるのではないでしょうか。

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