「"ながら練習"なんて意味がない」と言う人には理解できない "ながら練習"の本当の意味を辿る
DPT初級身体編は「ながら練習」にも最適です。
ところで、
動きながら話せることは、
面白い効果を得ることができます。
慣れた動き(ルーティン化された単調な動き)だと、尚更その面白い効果が期待できますが、効果を得るためには少々ポイントがあります。
以下の記事を時間のある時に見てみてください。
はじめに
偉大な功績を残した野球選手である、イチロー選手は、「話しながら練習」をしていることをご存知でしょうか。
一般的に、話しながら練習する事は周りから認められづらく、黙々と練習することが一般的ですが、
イチロー選手は「ながら練習」をしています。
有名なのは、
キャッチボールやスイング練習の時に、この「話しながら練習」を組み込まれています。
これは、イチロー選手が練習の本質である目的に応じた緊張と弛緩を使い分けていることが起因し、通常の練習では得られない効果を再現しつつ、無意識下にその動作をあらゆるパターンで落とし込む効果等を狙って「ながら練習」を実施しているに他なりません。
今回は、
記事のタイトルにある通り、"ながら練習"なんて意味がない」と言う人には理解できない "ながら練習"の本当の意味を辿っていきましょう。この記事最下部には「ながら練習の欠点」も記載していますので、併せてお読みください。
※ あくまで概論として記述していますので、詳細にご興味がある方はお問い合わせください。
⭕️この記事を読んでわかること
ちなみに、イチロー選手に限らず、高いレベルのアスリートであれば「日常が練習です」と話す人が多いですが、その意味がこの記事を読めばわかるはずです。
ながら練習の意味がわかれば、日常のあらゆる事象を訓練と結びつけることができ、いつでもどこでも練習することが可能になります。
・・・余談ですが、
駅のホームで傘🌂を使って、ゴルフのスイングの練習をしている人や、道端で歩法の訓練や、技の訓練をしている人たちの気持ちも わかるようになるかもしれません。
▶️練習の意義の側面から
ここでは
①練習の本質である目的
②緊張と弛緩
の説明を論述します。
① 練習の本質である"目的"を明確化せよ
あなたは練習中、「なんのためにそれをやっているの?」と聞かれたり、自分自身に問いかけたことはありますか?
練習には目的があります。よって、練習は目的のための手段です。
練習は競技者が持つ技術や戦術、体力、精神力を最大限に発揮できるようにすることが一般的な目的ですが、心技体の条件を整える事と一言でまとめてしまいましょう。(心技体の条件を整えるについては後述)
ただし、練習とは手段であるため、千差万別。差異や種別が非常に多いわけです。したがって、その練習の目的を明確にせずに何のためにやっているのかわからないまま練習をしていては目的に辿り着くためには「運・根・勘」が必要です。
よって、科学的再現性を持って合理的な練習の意義を果たすためには、最低限「その練習、なんのためにやってるの?」という問いに答えられるくらいには練習に対する理解度や解像度がないと、「ながら練習」の効果は乏しいでしょう。
例えば、
あなたの競技に腕を伸ばす動作があるとして、
・肘から伸ばすのか
・肩から伸ばすのか
・背中から伸ばすのか
・腰から伸ばすのか
・足から伸ばすのか
・母指球から伸ばすのか、、、、、
などなど、いろんな腕の伸ばし方がありますが、その動作の練習の目的を、意識せずとも意識できてる状態(=表層意識ではなく無意識下で目的を理解できてる状態)で「ながら練習」を行えば非常に効果が高いです。
② ながら練習の効果
プロスポーツにおいては、技術の向上や戦術の習得は当然のことながら、試合のプレッシャーや状況に対して適切に反応できるメンタルの鍛錬も重要な要素となります。
特に、イチロー選手のように長期間にわたって高いレベルでプレーする選手にとっては、常に新たな環境やプレッシャーに適応する力が不可欠であり、そのためには「練習」が単なる身体的な反復作業に留まらず、心技体のバランスを整えるためのプロセスであることが求められます。
そこで、「話す」という条件を一つ練習に加えることで通常の練習とは違う角度からの心技体へアプローチすることが可能になります。
有名な話では
シアトルマリナーズ時代の映像では、240球あるボールを「話していたらいつの間にか投げ終わっていた」「翌日の疲労度が軽くなった」とも言われ、
普通の人であれば全身運動である投球を240回以上繰り返せば疲労感が出て当然ですが、話しながら投げる事で疲労感がないという効果(※話していても240球全てのコントロールも抜群だった)を感じたということは非常に有名です。
このように、
様々なアスリートが行う「ながら練習」は、上記した練習の一般的な目的を達成するための一つの手段であり、*練習中にリラックスした状態を意図的に取り入れること*で、試合の状況においても心身の緊張をコントロールし、必要な瞬間に最大のパフォーマンスを発揮するための準備を行っています。
すなわち、彼らの練習方法は、技術的な熟達と同時に、試合中のメンタルの強さや集中力を養うためのものであり、それが彼らの驚異的な成功に繋がっていると考えるとわかりやすいでしょう。
この*練習中にリラックスした状態を意図的に取り入れること*は、アスリートであれば意識的・無意識的に関わらず、日常生活のあらゆるシュチュエーションで試合を意識して行なっているのは既知でしょうが、
試合の状況においても心身の緊張をコントロールすることにその目的があるために、「話すこと」も一つの方法に過ぎず、実際には様々な方法が実在しています。
時間があればこちらもご覧ください。
③ 緊張と弛緩
プロスポーツにおける「緊張」と「弛緩」は、単に筋肉の状態を指すのではなく、競技者が精神的・肉体的にどのように状態をコントロールするかという点に直結しています。
緊張は、集中力を高めるために必要なものであるが、それが過度になると動きが硬直し、逆にパフォーマンスを低下させる可能性があるのです。
一方で、弛緩はリラックスした状態を保ち、柔軟な動きを可能にしますが、これには大変多くの誤解が存在し、誤解が過度に進むと集中力の欠如やパフォーマンスの低下を招きます。
イチロー選手が実践する「ながら練習」は、この緊張と弛緩のバランスを自らの意志で調整する方法の一例です。
練習中に「話しながら」行うことで、アスリートたちは身体本来がもつ自然な動作や、競技上、理にかなった動作をあらゆるパターンで身体に認識させています。
あらゆるパターンで認識というと難しく聞こえるかもしれないですが、実際にはその再現方法は難しいわけではありません。センスある練習生であれば、自然にこの方法を行っているからです。
試合という極度の集中状態であっても想定外の事態が起こる事がありますが、身体と心と技術に意識に向けながら動作をしつつ、「話す」などの別の条件を加えばよいです。
しかし、
慣れてない人が慣れない動きを緊張させながらやると、手段が目的になるために「ながら練習」の効果は激減してしまいます。
ながら練習とは、あくまでもその練習の目的を深く理解している人が行うことで効果が得られる練習法と言えます。
COLUMN「別の条件を加える」とは?
▶️ 「意識」の側面から
①イチロー選手のような高レベルの選手が実施できる「ながら練習」時における「意識」の状態と、
②一般的なレベルの人たちによる、一般的な練習における「意識の状態」にはそれぞれ差があります。
①は、意識を弛緩させて広くしますが、②は、意識を緊張させて狭くなったり硬くなったり強張ったりすることがあります。
この項では、「意識」の違いについて言及していきます。
1. 高レベル選手における「意識の状態」
イチロー選手のような高レベルのアスリートが「ながら練習」を実施する際の「意識の状態」は、緊張と弛緩のバランスが高度に洗練されています。
具体的には、彼らの意識は広がりを持ちながら、リラックスした状態で周囲の状況や自身の身体感覚に対して敏感に反応できる状態にあります。
これは、一般的な集中力とは異なり、全体像を把握しつつも、必要な瞬間に瞬時に特定のポイントに意識を絞り込むことが可能になります。
「広範囲に集中を巡らせている」ともいえる状態で、ある程度の集中力を持つ人はこの広範囲を認識できる状態を経験することが可能です。
この状態は、私たちが豊富な経験を通じて得ることができるものであり、繰り返しの練習と試合経験を経て、体と心が自動的に最適な反応を取れるようになるまで鍛え上げることができます。
その結果、意識がリラックスした状態でも、必要な情報を瞬時に処理し、適切な判断と動作を行うことができます。ただし、もっと集中が進むと認知の範囲が広がります。
トップレベルのアスリートが練習や試合において、過度な強張りと伴う緊張を避けつつも、弛緩や張りを伴う最高のパフォーマンスを発揮できる理由の一つです。
2. 一般的なレベルの人たちにおける「意識の状態」
一方で、一般的なレベルの人たちが練習を行う際の「意識の状態」は、より狭く、かつ緊張感を伴ったものになりがちです。
これは、技術や経験が未熟な段階では、注意を特定の動作や状況に集中(フォーカス)させることに意識を集中させる必要があるためです。
結果として、意識は一点に固定されやすく、全体像を把握する余裕がなくなることが多いです。これにより、動作が硬くなったり、余計な力が入ったりすることがあり、全体的なパフォーマンスの質を下げてしまうことがあります。
また、緊張が強まると、意識の幅が狭まり、視野が限定的になりがちです。この状態では、全体の流れや周囲の状況に対する反応が鈍くなり、瞬時の判断や動作の柔軟性が失われることがあります。認知の範囲も部分的であり、断片的であり、表面的です。
これが、一般的なアスリートが練習や試合でミスを犯しやすくなる原因の一つです。
逆に、集中によって認知の範囲が広がると部分的でなく、いろんなことを認知でき、断片的でなく幅広くを認知でき、表面的でなく深い領域まで理解することが可能です。
3.まとめ
「ながら練習」は後者 2. 一般的なレベルの人たちにおける「意識の状態」で行ってもなかなか効果が出ませんが、前者 1. 高レベル選手における「意識の状態」の状態で行う「ながら練習」は非常に効果があるのです。
1. 高レベル選手における「意識の状態」を獲得するためには、日々の何気ない動作と心技体を結びつけ続ける工夫を行う必要があります。
この具体的方法は別記事でいずれ紹介していきたいと思いますが、相応の時間と適切な訓練が必要になります。一般的に、優れた専門家になるまでの時間として〇〇時間の法則は矛盾や反論も多いですが、あながち嘘とは言えません。
この法則は一部の成功例に基づくもので、すべてのケースに当てはまるわけではありません。1万時間という数字はあくまで一つの目安であり、練習の質や方法、個人の才能、目的意識などが考慮されていない場合が多いです。
この法則の矛盾は、単に長時間練習することが成功の鍵だと誤解させてしまう点にあります。実際には、適切な指導の下で目標に沿った効果的なトレーニングを行うことが、成果を上げるために不可欠です。時間を積み重ねるだけではなく、質の高い訓練と目的意識が、ポテンシャルをアビリティに変えるための重要な要素です。
▶️ ながら練習の要点
「無意識下に、その動作をあらゆるパターンで落とし込む効果を狙っている」ということは、意識的な努力や集中を必要とせずに、身体が自動的に最適な動作を選択し、実行できる状態を目指すという意味です。
このプロセスは、特にトップアスリートにおいて重要であり、練習の質と量が大きく影響します。
動作の自動化と無意識の役割
動作を無意識下に落とし込むということは、繰り返しの練習によって、技術や戦術が自動化され、意識的に考えることなく適切な反応ができる状態を作り出すことです。
これには一般的に反復練習を通じて神経系に新たな回路を形成し、その回路が強化されることで、特定の動作や反応が条件反射のように自然に発生するようになります。
プロの選手は、無数の練習と試合の中で、同じ動作やプレーをあらゆる状況で繰り返し行います。
その結果、特定の動作や反応が意識の外で行われるようになり、複雑な状況でも即座に最適な行動が取れるようになります。
この無意識の中での動作は、試合中の高速で変化する状況に対処するために不可欠であり、反射的な動作が成功の鍵となることが多いです。
パターン認識と適応
さらに、無意識下で動作をあらゆるパターンで落とし込むということは、選手が多様な状況に対応できるようになることを目指しています。
特定の技術や戦術が様々な環境や対戦相手に適応できるように、練習中に様々なパターンを体に覚えさせることが求められます。
例えば野球の場合は、
打撃練習で同じスイングを繰り返すだけではなく、異なる球速や投球角度に対応することで、選手はどんな状況でも自動的に最適なスイングを行うことができるようになります。
武術や他のスポーツなどでも
この「パターン認識と適応」は、無意識の中での動作に多様性を持たせるために重要です。
選手は練習を通じて、特定の技術を異なる流れで適用する方法を学び、その結果、試合中に発生する予測不可能な状況にも対応できるようになります。
これにより、選手は意識的な思考を挟まずに、迅速かつ効果的な判断を下すことができるようになります。
このことを理解することは、選手の育成やパフォーマンス向上において極めて重要です。
無意識下での動作の自動化と、あらゆるパターンへの適応力の育成は、選手の技術を次のレベルへ引き上げるための鍵となります。
選手に単なる反復練習を課すのではなく、多様な状況や課題に対処する能力を養う練習メニューを設計することが求められます。
また、選手が無意識に最適な動作を選択できるようになるためには、練習の中で意識と無意識のバランスを取りながら、技術と戦術を磨いていくことが重要です。
トップアスリートが実践している「ながら練習」は、このプロセスの一環であり、彼らが無意識の中で多様な動作パターンを身につけ、試合で最高のパフォーマンスを発揮するための手段となっています。
▶️ COLUMN 心技体の条件を整える
心技体の条件を整えるとは、その競技の目的の達成に必要な要素を揃えることを指します。
競技者が持つ技術、戦術、体力、そして精神力を統合したり、高めたり、補ったり、これらの要素を全て調和させること とも言えます。
これらは最高のパフォーマンスを発揮するために必要であり、練習の本質的な目的といえます。
ここでは概論として、心技体それぞれがどのように相互に作用し、選手のパフォーマンスに影響を与えるのかについて解説します。
1. 心技体の統合
「心技体」とは、精神力(心)、技術(技)、体力(体)を指し、これら三つの要素がバランスよく整えられている状態が、競技者が持てる力を最大限に発揮するために不可欠であるとされています。
練習の過程では、この三つの要素を個別に鍛えるだけでなく、これらを統合して最適なパフォーマンスを発揮することを目指します。
2. 心:精神力の条件を整える
「心」とは、競技者のメンタルや精神的なコンディションを指します。試合に臨む際の集中力、プレッシャーへの対処法、モチベーションの維持など、精神的な側面が競技者のパフォーマンスに大きな影響を与えます。
練習を通じて、自信を持ち、冷静さを保ちながらプレーできる精神的な状態を作り上げることが求められます。
一般的にはメンタルトレーニングやイメージトレーニング、また試合形式の練習を行うことで、心の条件を整えますが、日々の行為によって心が形成するのです。
よって、日常の生活規範こそが精神力を左右する決め手となります。
3. 技:技術の条件を整える
「技」は、競技者が持つ技術や戦術を指し、これらを磨き上げることが練習の主な目的の一つです。技術的な練習では、基本動作の反復や戦術の理解を深め、競技におけるあらゆる場面で正確かつ迅速に適応できるようにします。
また、技術の習得は、個々の技術の精度を高めるだけでなく、実戦での応用力や、相手との駆け引きの中で最適な選択ができるようにすることも含まれます。
4. 体:体力の条件を整える
「体」は、競技者の体力やフィジカルコンディションを指します。高いレベルで競技を行うためには、十分な体力が必要であり、またそれを維持するためには継続的なフィジカル・トレーニングが不可欠です。
「体力」の定義は幅広く、スタミナに限った話ではありません。練習を通じて必要な筋力、持久力、柔軟性、敏捷性を高め、競技中に疲労せずに最高のパフォーマンスを持続できる身体を作り上げることを含めて、身体的な側面を体力と呼んでいます。
体力の向上は、技術の発揮や精神力の維持にも直接的な影響を与えており、深い相関関係があります。
5. 心技体の調和
最終的に、これらの要素が調和することで、競技者は最高のパフォーマンスを発揮できるようになります。
技術が高くても精神的に不安定であれば、その技術を試合で活かすことは難しく、また体力が十分でなければ長時間にわたる競技では力を発揮しきれません。
そのため、練習ではこれらの要素を個別に鍛えながら、最終的には全てをバランスよく統合することが求められます。心技体の条件を整えることで、競技者は試合において安定した高いパフォーマンスを発揮することができるのです。
DPTでは、この点を3次元的に理解する図を使って、自分自身の問題点を発見します。
この心技体の調和を促進することは、選手の育成や指導において最も重要な課題の一つです。
選手が持つ技術を磨くだけでなく、精神面の強化や体力の向上も同時に進め、選手がバランスの取れた状態で競技に臨めるようにすることが重要です。