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マイナンバー

 マイナンバーには基本的に賛成だが、現状その導入に問題が多く、目を覆う。
 カナダに単身赴任したとき、ソーシャルセキュリティ番号SSNを取得しなかった。研修で半年の滞在、給与は日本で支払われる。カナダで所得は発生しないから納税しない。だが銀行から見れば、研修だと言って入国する外国人労働者だ。SSNを取得していない私に、カナダの銀行は口座を作ってくれなかった。
 シリコンバレー支店ではSSNを取得した。Social Security Administrationオフィスに申請する。どこのオフィスでも申請できる。一番近いオフィスは閑静な住宅街の古い民家だった。リビングを改装して受付は一つ。シリコンバレーは、少し前まで果樹園広がる田舎で転入者は少なかった。こんな小さなオフィスで事足りた。
 SSNがないと給与を受け取る口座を持てない。だから、躍起になって普及を図る必要などない。日本では徴税目的のマイナンバー普及に手こずり、ICチップを内蔵したマイナンバーカードで起死回生を図った。ポイントをばら撒いて普及を図った。DXのメリットを謳うため用途を広げ、そしてトラブルが起きた。
 コンビニで他人の住民票が出てきたのはシステムのバグだが、健康保険証は運用ミス?いや本当にそうだろうか。
 保険のひもづけを人手でやっているからミスが起こる。健保組合のシステムと住民基本台帳をネットでつなぎ、自動でマイナンバーを取得すれば。「難しいんだ!」は想像できるが、それが難しいならDXなど唱えてはいけないのだ。
 システムを接続しなかった結果、人がミスの原因となった。すると、今度は「総点検しろ」という。恥の上塗りならぬ人の上塗り。ますます非効率だ。現場は超多忙となり、バイトを雇い、何か別のトラブルが起こる。
 公金受取口座の登録ミスは、ログアウトを忘れたためという。ログアウトしなかった奴が悪いのだろうか。マイナンバーカードを握りしめて専用端末に並び、緊張しながら口座情報を入力した。完了メッセージが出てホッとして、次に待つ人に端末を譲った。生涯初で一度きりの操作をする一般人にログアウトしろは酷ではないか。
操作の様子を少しでも見たら発見できた問題だと思う。自動ログアウトするなど、解決方法はある。数行のプログラム改修だろう。
 だが仕様の変更を起案し、会議をいくつも通し、改修にこぎ着けるのは実際大変だろう。そこで、つい見て見ぬふりをした人がいるのだ。これはそのツケだ。導入の責任者と開発の責任者がフランクに会話できないプロジェクトは、じつに多い。それもDXの実力なのだが。
 さて、当面のトラブルが解決し、総点検が完了しても、マイナ保険証にはまだ懸念がある。それはオンラインを基本としている点だ。マイナンバーカードを見ただけでは、患者の自己負担率が分からない。医療機関はネット経由で患者の資格を確認しなければならない。
 従来は健保、国保、後期高齢それぞれ保険証があった。健保、国保なら自動的に3割負担、後期高齢には1割と2割があり、表記されている。
 厚労省は、カードリーダーなどオンライン資格確認システムの導入を義務化し、病院、診療所、薬局に発破をかけてきた。補助金も出し、2021年1月導入率36%、それが期限の今年2023年4月には70%まで到達した。涙ぐましいが、全国23万への導入はまだ完了していない。
 未導入の診療所に、マイナ保険証の患者が訪れたら、どうするのだろう。医療機関は原則、診療を断れない。また、導入済であっても、ネットのトラブルは起こり得る。
 オンラインで確認できなかったときは、「そのときは3割負担でいいじゃないか」と政治家が言ったとか。だが「俺は後期高齢だ、1割だ!」と患者に怒られたら。窓口は戦々恐々としているだろう。そこへ今回の、ひもづけミスだ。オンライン確認ができても、それは他人の資格かもしれない。そんなシステムは嫌だ!と叫びたいだろう。
 窓口に紙の保険証も持参してもらい、マイナ保険証のオンライン資格確認と食い違っていたら「マイナンバー情報総点検本部」に連絡する、というのが現実的だと思うのだが。
 それより元通信屋の私が懸念するのは、ネットの信頼性だ。ネットのトラブルでオンライン確認できず、それで診療が始められなかった。そういう可能性はある。万一命に関わればニュースになってしまう。
 ISPの設定ミスでネットが輻輳してしまう事故は、結構起きる。トラックが電柱に衝突し、光ファイバーを切ることもある。さらに病院内のハブが一つ故障してもオンライン確認はできなくなる。
 ところで、マイナンバーカードにはICチップが搭載されている。それが売りだ。そこに保険情報を入れておけば、カードリーダーだけ動けば資格が分かる。
 ICチップに、たとえば図書館の利用カード情報は入る。それなのに保険資格は入らない。まあ、仕様検討には技術的ではない経緯があるのだろう・・・
 NTTコムウェア時代、韓国の保険制度を視察した。「電子政府」に振り回された開発プロジェクトも見てきた。あれから20年近く経ち、ようやく実現間近なのだが・・・

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