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小説『Y的なビニール袋』(三四七十一文字) (ときどき改良してゆく)

(五二〇〇円と設定したうえで、今は無料で全文見せておきますね。別にお金が欲しいというより、自分の作品に、価値を付ける練習をしているようなところもあるので。 まぁ、ちょいと読んでいってくださいよ笑)

「どけ」

どこかからか、そんな声が飛んでくるんじゃないかと、僕はそわそわしながら、道を歩いていた。

金曜日。外は曇りだったけれど、今日は散歩をするんだと昨日の昼から決めていた。

時刻は午前、九時二〇分。腕時計は付けていかないから、外で時計を見るときは、通り過ぎる公園の大きな時計くらいだろうか。

本当に困ったら、人に聞くのだろうが、なにか重要な用事があるわけでもないし、大丈夫だろうと思い、僕は家を出た。

外は雨がぱらぱらと降ってはいたけれど、傘は持っていかない。

普通の傘だと、どこかに置いてきてしまいそうだし、折り畳み傘だと、僕のいつの間にか巨大化した体は入りきらない。

肩やら、髪が濡れることになってしまう。

巨大化したとはいっても、僕は日本人の平均身長より、少し低いかどうかくらいだ。でも、小さかった、あの頃からしてみれば、だいぶ身長が伸びたものだと思う。

別に、そこまで髪の毛に気をつかっているわけではなかったから、多少濡れたってかまわなかったのだが、いざ、外に出れば、意外と濡れることを、もう僕は分かっていた。

玄関に行き、三年ほど前に買った黒いスニーカーを履き、外へと出た。

玄関のドアを出ると、大きなおじさんが、真顔で突っ立っていた。

怒っているのか泣いているのか、よく分からない顔をしている。

なんて、そんな怖ろしいことはなく、ただ、ゆったりと風が吹いていた。

とても心地のいい風だった。

東から吹く、その風は、僕の背中を優しく押しながら、いつも使う、階を選ぶボタンだけが新しくなったエレベーターまで向かわせた。

外は、少しだけ寒かった。

僕は、歩いているときは、すれ違う人と目が合ったりするのが、とても嫌だったから、外を歩くときなどは、自分自身のことに集中すること、決めていた。周りが見えなくなり過ぎないように気を付けてはいたが、たまに、人とぶつかりそうになることはあった。

僕は、比較的、歩くのが速かった。かなり速かった。

家族と歩いているときは、いつも「お前、歩くの速いな」と言われた。

だけれど、僕の友達からは「お前、歩くの速いな」と、言われることは、あまり、なかった。

友達が少ないわけではない。僕の周りの友達は、大体の人が、歩くのが速いのだ。

そうなってくると、僕が平均的な速度のように思われるかもしれないけれど、決して、そんなことはない。本当に僕は歩くのが、とても速いのだ。

まぁ、そんなことは、どうだっていい。どうだっていいことはないが、歩くのが、速かろうが遅かろうが、法律的に問題があるわけでも何でもない。

名も知らぬ鳥の鳥の鳴き声が聞こえる。なんて言っているのだかは、人間の僕には分からない。もしかしたら、分かる人間もいるのかもしれない。遠くのベンチでうつむいて座っている、あのおばあさん。もしかしたら、鳥とテレパシーかなにかを送り合っているのかもしれない。もし、そうならば、僕にも鳥の気持ちや心情というものを教えてもらいたいと思うのだが。

僕は、少し落ち着くために、深く深呼吸をした。

二回目に、息を吐いたときに、近くで、ハエが飛んでいるのが分かった。

僕は左前にハエを見つけてから、体を反らし、左手で追い払おとしたが、ハエは僕を嘲笑うようにプ~ンと宇宙のどこかへと逃げていった。

なぜだか、あまり地球に慣れているという感じがしなかった。

今、さっき逃げて行ったハエのことだ。

もしかしたら、あのハエは月だとか、火星だとかが本拠地で、たまに暇だから、人間でも見に行くかぁ~くらいの感覚で、地球へと来ているのではないかと僕は思った。

おそらく、違うだろう。でも、その方が、ファンタジーな世界が広がってゆくから、僕は、自分でつくりあげた仮説の方を信じることにした。

自分は本当に死ぬだろうかと思うときが、たまにある。誰にだってあるのだろうが、いや、ないか。このまま生きた先に「死」というものが来るとは到底、思えないのだ。一体、「死」というのは、何なのか、まだ僕には、はっきりとは分からないのの、そんなに悲しいものでもないような気もする。あの世とこの世というのも、さほど変わりはなくて、ただ少し引っ越しをするくらいの感覚でいいのではないかと最近では、自分の中で勝手に考えている。

「死」とは、何だと思う?なんて、友達には話さない。友達に、そんな話をしたら、重くてしんどいやつ扱いされるはめになってしまう。友達とは、あおこのラーメン屋、旨いよなとか、そんな程度の話で十分なのだ。そんな哲学的な話をしたくもない。仮にしたとして、言い争いになったりするのも、僕は嫌だ。

色んなことを考えながら、散歩をしているうちに、あっという間に、夕方になっていた。ひたすらに歩き続けた。僕は、とても早歩きだから、何人もの人を後ろから追い越した。僕は、あまりから追い越されることがないから分からないけれど、追い越されると意外と驚いたりするものなのだろうか。僕には、分からない。なんせ、僕は歩くのがとても速いからだ。

家に到着した。いつもは、変なところで迷ったりするのだが、今日はスムーズに家まで帰ることが出来た。

あまり好きではないお風呂に入って、僕はぐったりとしていた。

家の中に、ソファはないから、固くて茶色い椅子の上に僕は座っていた。

しばらくするうちに、僕は寝てしまった。今までに、眠る瞬間とというのを捉えようと今まで何度も試みたが、今回もそれは無理だった。

僕は夢を見た。淡くて綺麗で、ぼんやり、ふわふわとしていた。

夢の中で連れていかれた場所は、まるで、シャボン玉が無数に飛んでいても、おかしくはないくらい不思議な空間だった。何か見えない小さな妖精が、僕の日ごろの疲れを癒そうと、運んでくれたのかもしれないと僕は、思った。

僕は起きた。よだれが、あごについている。僕はそれを右手で雑に拭き取った。

時刻は二十三時二分。いつから寝始めたかは分からない。だけれど、不思議な夢は、まだ、ふんわりと頭の中を支配していた。

僕は自分の机へと向かった。

少し小説でも書こうかと思い、僕はペンを手に持った。

「あぁ、真夜中というのは、本当に小説が書けるものだ」

僕は一人で呟いた。

あっという間に、六百文字の小説を書き上げていた。

夢中になると止まらないのだ。夢中になっているときは、本当に、近くで爆発が起きたとしても、手を止めることは出来ないだろう。美味しそうな匂いがしたら、簡単に手を止めてしまうのだろうが。

だけれど、最近は、あまり甘い食べ物を口にしていないなと僕は思った。

小さい頃に、そういったものを食べると、虫歯になってしまうと言われていたからだろうか。

なぜ、積極的に食べないかは、自分でも分からないが、とにかく、食べたいという気持ちはあるけれど、あまり食べないという状態が続いていた。その感覚は、まるで、好きな人に告白しようか、やっぱり、やめておこうかの、あの、少しじれったい感じとも似ていた。

気付けば、時刻三時十八分。完全に昼夜逆転の生活になっていると僕は思った。こうなってしまえば、もう朝まで小説を書き続けるしかないと僕は思った。少しだけ眠いが、なんとかいけるだろうと思った。

僕はなぜだか急に、小学校のときに飼っていたウサギを思い出した。

別に、最近、ウサギを飼いたいと思っていたわけではない。多分、かわいいなにかを見たいという欲望が、ウサギにつながったのだろう。

ウサギだって、見た目はかわいいけれど、中身はどいつもこいつも、おっさんっぽいかもしれないだろと、僕は思っている。そんなことはウサギファンの女子には決して言えないのだが。

僕はふとベランダに出た。

どこからともなく白いビニール袋が飛んできた。少しだけ驚いた。

僕と一定の距離を保ちながら、風に揺られている。まるで、ボクシング選手が相手との間合いを取っているみたいだ。僕に近付いたかと思ったら、また少しだけ離れるということを、さっきから繰り返している。

月を見上げた。今日は三日月だ。

僕は最近、もうすぐこの全宇宙を理解してしまうのではないかというくらい、何か壮大なものに包まれる予感がしている。もうすぐだ。何かがもうすぐあるのだ。僕は右手の人差し指で雑に鼻をほじくりながら、しばらく空を眺めていた。



(こないだの小説にイイねつけてくれた方々、ありがとうございましたぁ~)

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