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ファイアパンチ感想

前書き

ファイアパンチを読み終えた。
以前チェンソーマンを読破しその反響を加味して「この作家大物になりそう」と思い、さらにバズっていたルックバックを見て「次にジャンプの屋台骨の一角となるのはこの人だろう」と感じ、その流れで読んだ。

感想

端的に言うと今まで読んだ藤本タツキ作品の中ではいちばん尖ってていちばん好きだった。
いくら近年ジャンプの規制が緩くなってきたとはいえ、それでもチェンソーマンはわりかし少年漫画としての枠組みを守っている感じだった。
ところがこのファイアパンチは最初の連載だったことと、少年ジャンプ+で連載していたことが関係しているのか、一話でいきなり妹との近親相姦(要素)があったりとわりかし攻めてる。「きもいなあ」というより「やってんなぁ」という感想。
ストーリーの方も基本的にストレートに語ることはしない。一話で敵を倒して「よっしゃ話が始まったぜ」という期待からの「仇は実は云々で〜」「〇〇も実はいなくて〜」などの下りでなんとなくこの作品の流れというものがわかった。
これは読者の展開を裏切ることを重視した逆張り型なのだ。思えばチェンソーマンでもそうだった。
そこが非常に好感が持てる。今の時代のエンタメ創作はオタク的な型(いわゆるお約束)に沿っているものが多く、web小説やアニメ等を見てもここまで逆張りを貫いている作品はない。あってもここまでぼくの好みと合致することはない。
両者の違いはおそらく逆張り元となる作品をチラチラ横目で見ているか否かによると思う。基本的に逆張りとは幼稚な反抗心に似た衝動から起きるもので、読者の予想やネタ元にどうしても抗いたい作者がやるものだ。だからストーリーテリングはめちゃくちゃになって収拾がつかなくなることが多い。
しかしこの作品はその衝動を微塵も感じない。藤本タツキがどういう人間なのか文献でしか知らんので憶測になるが、本人にその気がなく無意識で逆張りしているのか、はたまた稚気な衝動をうまく隠しているのだろう。非常に好感が持てる。更にこの作品は話の着地がしっかりしているのでポイントがもっと高い。
個人的にはストーリーがしっかりしているというのはいちばん大事な要素だと思っていて、これ如何によって作品の評価が星二つくらい変わってくる。
今は亡き妹に「生きて」という呪いを(あるいは祝福を)受けたことから始まる主人公の苦悩に満ちた人生。「どうして俺が生きなきゃならんのだ」という問いを胸に戦うだけの一生。というだけで「ああこいつは主人公にふさわしいな」という気にさせられてくる。さらにそれをメタ的に突きつけてくるので(そういうキャラがいる)納得感も半端ない。映画「グラディエーター」みたいなどこかで死にたいと思いながら生きている奴というのはぼくにとって大変に魅力的なキャラ造形なのだ。
こういうファッション鬱(物語には基本的にガチ鬱とファッション鬱があって、まどマギや進撃やらは基本的に後者)を作品に取り入れることによってサディスティックな悦びを覚え、ページをめくる手を止めさせない手法は進撃の巨人なんかでも見られるけど、割と理詰めで書いている(らしい)向こうとは違い、こっちは伊達に全八巻という短さじゃないだけあってノリと勢いで押し切ってくるからこっちまで嫌な気分になることもない。スケールも壮大なので火の鳥とかその辺の傑作を読んだ気分にさせられる。
そういうわけで「おもしれぇなぁ」というぼくの感想とは裏腹に、世間様の声は割と冷たいというか、二つに分かれていたのは意外だった。
ネットの評判を見ると「わけがわからない」とか「つまらない」という評価があるけど自分はそうは思わなかった。ちゃんと読めばしっかりわかるように描いてある。作品に出てくる祝福者の設定なんかも僅かな言葉でしか語られないけどその背景を想像するには十分だろう。多分だけどこの作品に整合性を求めるとそういう感想になるのだろう。先に書いた通り、基本的にノリと勢いである。そうそう難しく考えなくてもよい。
だからこの作品は一気通読に適しているように思う。そのため、低めの評価をした人は週刊連載されていたのを読んでいたからだったからなんじゃないだろうか。
適当な物言いだけど世代によって評価が変わって来ると思う。前述したように、藤本タツキは今のオタク傾向が強まったエンタメ界隈でも一際逆張りを好んでいるように感じる。
よって自分のような若年世代にはちょうどいい刺激になるが、少し年上の人たちにとっては見慣れた展開──いわばお約束がないというわけのわからない作品に見えるのかもしれない。
いわゆる作品のノリに乗れる乗れないの話になってくる。
だから感性が尖ってる中学生くらいに読むのがいちばん良いのかもしれない。
とはいえ、基本的には面白いしスラスラ読めるし巻数も少ないので未読の人は読んでほしい。

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