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←まえ 電車は周期的に揺れる。 全国模試を受けるために、少し遠い私立大学へ電車で向か…
アスファルトが湯気を立てそうなくらい暑苦しい八月に正気を保っていられるなんて、狂気その…
ロッシュ限界 惑星や衛星が、破壊されることなく近付ける距離の限界のこと。 * あの日か…
金山駅から名鉄の常滑行きへ乗って、神宮前駅で降りる。昔は小さな駅だったけれど、いつの間…
鞭もつ手で涙を 馭者はおしかくし これでは世も末だと 悲しくつぶやく * どうして、来…
それは、あの日の一年前のお話 海の向こうの水平線、曖昧に境界を塗り潰す薄雲が張った、蒸…
「ねえ、なぞなぞしない?」 佐登瑠夏、僕の婚約者はいつも急だ。 一番驚いたのは付き合って四年、同棲して八ヶ月、瑠夏は唐突に言った。 「なんか、結婚してよくない?」 朝食にトーストを齧りながら、最愛の人からのプロポーズ。 ムードゼロ、脈絡ゼロ、式への蓄え、親の挨拶などの根回しゼロ。だけど不安とか疑いだとか、そういうのもゼロだった。 「いいよね、ほら指輪」 と言いながら渡されたのは、食パンの袋を止めるときに使う、プラスチックで出来た名前が分からないアレ。
どうしてって、偶々、と答えるしか。 ねぇだから、なんにでも答えが必要なの、それは無責…
ダンダラダンダン、ダンダラダンダン。 小気味良いリズムに、歩を鳴らして歩く。 脳内で…
何もないところで躓く、段差があれば猶のこと躓く。しかし人間の修正能力とは偉いもので、そ…
叢雲が月を覆い隠すように、私の心中は曖昧さを極めていた。紅茶に注いだシロップが、溶け残…
キーンという音が、1日鳴り止まなかった。 始めは電子機器が壊れたのかと思って、部屋中を…
「一番に美しい感情ってなんだと思う」 彼女は射抜くように見つめる。私は彼女へ向いたまま…
夏が憂鬱を連れてくるのではない、夏が憂鬱そのものだった。太陽を忘れた肌が白く透けるようになっても、陽炎に浮かぶ空蝉は、どうも焼き付いて仕方ない。 彗星の尾のように、彼女の痕跡だけが、時折思い出しては降り注ぐ。願い事を唱える前に、再度それは消えてしまう。 常に数歩先を軽やかに、天才と呼ぶには惜しい。彼女にとっては、全てがお遊戯で、予定調和で、それを前に自分がいかに凡才か、思索する必要もなかった。冬に窓を開けた時、「うぇ、」とぼやく程度に、直感的に刹那的に圧倒的に、敵わな